大空幸星(おおぞら こうき) NPO法人あなたのいばしょ理事長・慶應義塾大学総合政策学部生
1998年、愛媛県松山市生まれ。「信頼できる人に気軽・簡単・確実にアクセスできる社会の実現」と「望まない孤独の根絶」を目的に、あなたのいばしょを設立。孤独対策、若者の社会参画をテーマに活動している。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ボランティアを「最後の砦」にせず、政治が責任をもつとき
菅総理は、1月18日の施政方針演説で、「SNSを通じた相談窓口などにより、不安に寄り添う体制を強化します」と述べ、SNS相談を強化する方針を表明した。上述したような、逼迫している相談窓口の状況を理解されたうえでの判断であり、相談窓口を運営する者としては、大変心強く感じる。しかし、対症療法的な相談窓口の体制強化だけでは不十分であり、問題の源流にアプローチする政策が必要である。
その源流の1つが、「望まない孤独」だ。「望まない孤独」とは、話したくても話せない、頼りたくても頼れないといった状態をいう。「あなたのいばしょチャット相談」に助けを求めにきた、仕事を失ったシングルマザー、いじめに悩んでいる小学生、家族から性的虐待を受けている中学生、家庭内不和により家にいられずネット上で知り合った人の家を転々とする学生、職場の人間関係に悩み自殺未遂を図った会社員など、約3万人の相談者が抱えていた共通の問題が「望まない孤独」であった。そして、その「望まない孤独」にアプローチする政策こそが「孤独対策」なのだ。
筆者は昨年夏以降、すでに孤独対策を、国を挙げて行っている英国の政府や赤十字の関係者らとやりとりを重ね、日本における独自の「孤独対策案」をまとめた。そして昨年12月、加藤勝信内閣官房長官や与野党の幹部らと会い、この案を提言として手渡した。
提言は、「孤独対策担当大臣の設置」や、自殺者数の7割は男性であるにもかかわらず、チャット相談窓口利用者の約8割は女性で、男性は相談をためらう傾向がうかがえることから「孤独にまつわるスティグマ(汚名、恥)の軽減に政府として注力すること」といった項目のほか、電話相談窓口の番号が厚生労働省登録窓口のものだけでも50個以上存在し相談窓口の利用を難しくしていることから、「3桁の全国共通相談ダイヤル(783なやみ)の導入」など、全12項目に及ぶ。
このなかで最も早期に取り組むべきは、「孤独の定義」を定めることである。
日本においては、客観的状態である「社会的孤立」と主観的感情である「孤独」が混同されている場合が多く、孤独という言葉の定義が曖昧であるという問題がある。
実は、孤独(Loneliness)に関する研究は長年行われており、多くの研究者によって定義がなされてきた。そしてそれらの定義には、共通点が存在する。それは「個人の社会関係の欠如に起因する」「主観的な体験であり、客観的な社会的孤立とは同じ意味ではない」「不快であり苦痛を伴うもの」というものだ。つまり、「孤独」というのは不快かつ主観的なもので、本人の望む社会的関係の質と量が、現状と乖離している状況、すなわち「望まないもの」であるのだ。実際、英国政府は孤独対策の立案にあたり、孤独の定義を定めたが、それは、「人付き合いがない、または足りないという、主観的で好ましくない感情」「社会的関係の質や量について、現状と願望が一致しない時に感じる」というものであった。
筆者が孤独対策の必要性について訴えるなかで、多くの人から寄せられるのは「孤独は人を強くするんだから、なくす必要はない」「ひとりで自分と向き合う時間まで奪うのか」といった批判である。またメディアにおいても、「孤独が人を強くする」「孤独を愛せ」などといった言葉が使われることがある。こうした精神論によって、孤独を感じ苦しんでいる人が支援を求めづらい状況が生まれている。
孤独対策は精神論ではなく、EBPM(Evidence-based Policy Making、証拠に基づく政策立案)でなくてはならない。そして、そのためには、まずは多くの国民が納得する定義を国が定めることが必要である。国が定義を定めることにより、全年齢を対象にした孤独感の調査を行うことも可能になる。加えて、こうした定義や調査によって得られたデータ等の関連リソースは、各省庁や研究者が自由に使用できるような仕組みを整えておく必要もある。こうしたEBPMによる孤独の客観化は、孤独を個人の問題から社会の問題へと広げてアプローチしていくための必須条件なのだ。