[49]底が抜けた貧困、届かぬ公助~コロナ禍の年越し炊き出し会場の異変
生活保護利用を阻害する「扶養照会」をやめてください
稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

年末年始も全国各地で炊き出しが実施され、長い列ができた。クリスマスの夜に集まった人たち=2020年12月25日
この冬、全国各地で続けられている生活困窮者支援の現場で異変が生じている。
支援を求めて集まる人が増加しているのに加え、従来とは異なる層の人たちが炊き出しの列に並ぶという現象が起こっているのだ。
「年越し大人食堂」 飢餓レベルの現状あらわに

昨年度の「年越し大人食堂」。約100人が訪れた=2020年1月4日
今年の正月、東京・四谷の聖イグナチオ教会のホールを借りて、「年越し大人食堂」という企画が2日間(1月1日と3日)、開催された。
仕事が途切れ、公的な福祉の窓口も閉まる年末年始は、生活困窮者にとって厳しい時期である。「年越し大人食堂」は、その時期に温かい食事を介して気軽に相談できる場を作ろうという趣旨で、一年前の年末年始に初めて私たち複数の生活困窮者支援団体の関係者が企画したものである。この時は、普段、ネットカフェに暮らしている若者や路上生活の高齢者など、各回数十人が集まり、料理研究家の枝元なほみさんが作ってくれた美味しい食事をみんなでいただいた。
それから1年。コロナ禍の影響で貧困が急拡大する中で開催された今回の「年越し大人食堂」には、元旦に270人、3日に318人と、前年の数倍にのぼる人が集まった。

今年の「年越し大人食堂」ではコロナ対策のためお弁当を提供した。料理研究家とともにボランティアがつくった
コロナ対策のため、今回はお弁当の配布という形になったが、枝元さんがボランティアとともに奮闘し、各回300~400食ものお弁当を作ってくれ、全員に食事を提供することができた。
会場には中高年の男性の姿に混じって、お子さん連れで来た人や若者、外国人の姿も目立っていた。話を聞くと、3人家族の全員が食べ物の確保に苦労をしており、各地の炊き出しをはしごして食料を集めている、という声もあった。
老若男女が食事を求めて列を作る光景は、飢餓レベルの貧困が広がり、私たちの社会の底が完全に抜けてしまっていることを意味していた。それは、これまで生活困窮者支援を27年間続けてきた私も見たことがない光景だった。