「記者クラブはアメリカに存在しない」という都市伝説
米国の情報アクセス実態と記者クラブ不要論
小田光康 明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長
過日、ある大学教員がこう話しかけてきた。「日本の記者クラブって閉鎖的でけしからん。取材が自由な海外ではあり得ない。日本のマスコミの因習そのものだ」。だが、記者クラブの取材経験が無い彼が言わんとすることが釈然としなかった。
大学で実務経験の無い教員が「マスコミ論」などの講義で、記者クラブの実態を知らず批判を繰り広げることも少なからずある。これらに尾ひれが付いて若い世代に「マスゴミ論」となって流布されることも、また問題なのである。
確かに国内の記者クラブが様々な問題を抱えることは確かだ。一般的に官邸や警視庁、東京地検特捜部など権力に近い記者クラブほど閉鎖的だ。
一方で、開放的な記者クラブはいくつもあるし、そこでの取材の後押しをしてくれる場合もある。記者クラブの問題は多岐にわたり、これらを十把一絡げに論ずるのは的外れであるし、問題の本質を見誤る。
日本と比べて欧米諸国では取材活動がとてもしやすく、記者クラブなど存在しないという「都市伝説」がある。欧米でも記者クラブとは別に情報へのアクセスに障壁があることなどいくらでもあるし、サロン文化に根付いた「目に見えない記者クラブ」が無数にある。これらは日本の記者クラブとは異なり、組織そのものが流動的であり、実態がよく掴めない。中には日本の記者クラブより一層保守的で排他的、秘密結社的なものもある。

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日本の記者クラブは実際に閉鎖的なのか。本稿では筆者の国内外での取材申請や記者クラブ入会手続きなどの経験を踏まえて日本の記者クラブ問題に関し、四回に分けて批判的に検討していきたい。初回は米国の情報アクセス実態と記者クラブ不要論、二回は欧米の「見えない記者クラブ」の真相、三回は外圧に屈した日本の記者クラブ、そして四回が記者クラブの現在進行形としたい。