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「記者クラブはアメリカに存在しない」という都市伝説

米国の情報アクセス実態と記者クラブ不要論

小田光康 明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長

米国にも記者クラブと同等の情報アクセス問題がある

 まず、米国での情報アクセスの問題について触れよう。米国など欧米先進国では取材報道活動に容易に参入できると語られることが多い。だが、実際には情報へのアクセスという面では日本の記者クラブ同様の難しさがある。

 筆者は1990年代前半に共同通信の米国アトランタ支局で五輪関連イベントのほか、ジョージア州議会や連邦政府要人などの取材のための記者証発行や取材先へのメディア登録、記者会見出席の申請などを数多くこなした。この支局は1996年アトランタ五輪のための期間限定で臨時に開設した支局だったので、これら申請の前例や引き継ぎなどなく、すべて最初からやる必要があった。

 通常、引き継ぎで米国に派遣されてくる日本のマスコミの「特派員」や「支局長」は申請業務のような雑用を担当する機会は限定的で、この実態を知るものはそう多くないだろう。筆者は中途の現地採用だったので、こうした業務をほとんどすべて担当した。これら申請業務は国内の記者クラブの手続き的な問題と大差はなく、複雑で面倒である場合がある。分からなくなると前の職場の弁護士に助けてもらったりもした。

 ジョージア州議会のメディア登録と記者証の申請を例に取ろう。これらの申請では、申請書のほか、身分証明書、ビザ、社会保障番号、所属メディアの案内冊子、所属メディア責任者からの照会書、署名入り記事5本など多数の書類が求められ、州議会事務官との面接審査を経る必要があった。面接まで課すのは筆者が経験した日本の気象庁記者クラブなどの入会手続きと同様だ。

海外取材で最も面倒なのはメディア自体を知ってもらうこと

 ニューヨークやワシントンDC、ロサンゼルスならいざ知らず、米国南部の片田舎で日本のメディアなど知る人はほとんどいない。この面接で最も面倒だったのがメディア自体を認知してもらうことだった。これを首尾良く説明できないと、許可を受けるまでたどり着けない可能性がある。

 面接担当官に「Kyodo (共同)News」と説明すると「Oh, I know Kyoto (京都)News」とおかしな誤解をされたりもした。このためか、共同通信の名刺には「Japan’s representative news agency」と印刷されていた。メディア自体の説明は、五輪組織委や街角の取材でもたびたび直面した。

 また、面接は無くとも各種団体などへの記者証申請や要人の記者会見出席申請では同等の手続きが求められた。取材先によって毎回異なった方法や内容で申請し、取材案内をしてくれるPR会社などにもくまなく連絡をとった。

 さらに、要人取材の場合は特にセキュリティ・チェックが厳しい。取材会場での身体と荷物の検査はもちろんのこと、事前に身分証明書を提出させられる場合もあった。ただ、これら手続の厳格さは先例の有無によって異なる場合もあった。これのプロセスは1週間程度で、却下されたことはなかった。

拡大Sharomka/Shutterstock.com

 このように、米国では一定の取材のスタート地点にたどり着くまで、メディアと記者自身の情報開示とその説明責任、そしてセキュリティ・チェックが強く求められる。記者と名乗ったらすぐにどこでも取材ができるわけではない。特に、その土地の新参者に対しては厳しいチェックがあることが多い。

 ちなみに、日本国内でも大手マスコミのような大看板の無いフリーランスなどの記者はこうした面倒な手続きが毎回必要だが、記者クラブに所属していればかなり軽減される。

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筆者

小田光康

小田光康(おだ・みつやす) 明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長

1964年、東京生まれ。米ジョージア州立大学経営大学院修士課程修了、東京大学大学院教育学研究科博士課程満期退学。専門はジャーナリズム教育論・メディア経営論、社会疫学。米Deloitte & Touche、米Bloomberg News、ライブドアPJニュースなどを経て現職。五輪専門メディアATR記者、東京農工大学国際家畜感染症センター参与研究員などを兼任。日本国内の会計不正事件の英文連載記事”Tainted Ledgers”で米New York州公認会計士協会賞とSilurian協会賞を受賞。著書に『スポーツ・ジャーナリストの仕事』(出版文化社)、『パブリック・ジャーナリスト宣言。』(朝日新聞社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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