2021年01月26日
1月20日、ジョー・バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領が正式に就任した。1月6日に合衆国連邦議会議事堂を襲撃したトランプ支持者たちのような暴徒も現れず、式典は最後まで平和に終了した。
当初から指摘されてきたように、バイデン大統領は華やかなスター性も、カリスマ性もない。だが就任式からわずか数日の間に、大統領としての実行力を見せつけた。
就任して3日の間に、バイデン大統領は30項目におよぶ大統領令に署名した。パリ協定への復帰、WHO(世界保健機関)脱退の撤回などは、日本でも大きく報じられている。だが米国内でより注目されているのは、バイデン大統領が新型コロナウイルスの対応を「戦時下」の緊急事態と宣言して、1兆9000ドル(約200兆円)規模の景気対策予算案を出したことである。
米国内ではこれまで新型コロナウイルスで亡くなった犠牲者は、40万人を超した。2月の末までに50万人に達するだろうと言われている。ここで大統領が「戦時下」緊急宣言を発動しなければ、一体いつするのか、という事態なのは間違いない。
バイデン大統領がこれまで署名した大統領令には、以下のようなことが含まれる。
• ワクチン接種、検査設備、そして防御マスクなど必要物資の供給のスピード化
• FEMA(合衆国緊急事態管理庁)の援助によるワクチン供給所の設置
• これまで州が負担してきた州兵と緊急物資予算に対するFEMAによる補償の増額
• パンデミックで食料が買えないなど生活が困窮している人々への緊急援助
• 連邦政府の施設、および空港と公共交通機関の中でのマスク着用の義務付け
次々と打ち出される対策案を見ながら感動した筆者自身、どれほどこの4年間でトランプ政権に精神的なダメージを受けていたのか、改めて実感した。
バイデン大統領の大統領令は、アメリカのパンデミックの現状を見れば、先進国の対応としてごく当たり前のことばかりだ。その当たり前のことをトランプ前大統領がどれほど否定し、国家元首としての任務をネグレクトしてきたのか、しみじみと考えさせられることになったのだ。
トランプ前大統領は過去1年の間に、パンデミックを軽視して、その火に油を注ぐような言動を繰り返してきた。中でも以下の3つには、政治的ポリシーの違いというよりも本人の人格がよく表れている。
• 国立アレルギー・感染症研究所所長ファウチ博士を「あの間抜け」と公式の場で嘲り、トランプ支持者たちがファウチ博士に殺人予告を送りつける事態となった。
• 感染防止のロックダウンを指示した民主党の州知事たちを激しく非難し、支持者を煽ってミシガン州ホイットマー知事の誘拐未遂事件の土壌を作った。
• ホワイトハウスの権力を乱用して、医療器具もワクチンも、州知事が民主党の州は後回しにすると脅した。
こうしてざっと書き並べていても、「本当にこんなとんでもないアメリカ大統領が、実在していたのだろうか」と、頬をつねりたい気持ちになる。
そのトランプ前大統領も、1月20日の朝にフロリダの私邸「マールアラーゴ」に移動した後、公の場には出てきていない。ツイッターから永久追放され、フェイスブックのアカウントも閉ざされて、一時の暴言の嵐がウソのように沈黙を保っている。
トランプ前大統領は11月から退任するまで大統領の権力を利用して、支持者から寄付まで募って大統領選の結果を覆そうと試みた。だが米国司法省、国土安全保障省、連邦最高裁のいずれもが、不正選挙の証拠はないという結論を出した。
「民主党陰謀論」を声高に主張してきたシドニー・パウエル弁護士は、ひっそりとジョージア州の不正選挙の訴訟を取り下げ、集計システムなどを提供したドミニオン社から名誉棄損で13億ドル(約1350億円)もの損害賠償を請求されている。
トランプ前大統領の顧問弁護士だったルディ・ジュリアーニ氏は、1日2万ドルの報酬の支払いをトランプ氏から拒絶されていると側近たちが明かした。1月25日、ドミニオン社はジュリアーニ氏に対しても名誉棄損の提訴をした。
支持者たちが期待していたように、クラーケン(海の怪物)が
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