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「米海兵隊と自衛隊の極秘合意」をスクープした沖縄タイムスと共同通信の合同取材

権力監視型調査報道の画期的な第一歩

高田昌幸 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

確度の高い端緒情報と個人間の信頼関係が不可欠

 もっとも地方メディアの連携そのものは、最近になって始まったわけではない。

 各地域を結んで風物詩や伝統行事などを紹介する連携企画は幾度もあった。硬派なテーマをめぐる合同取材も実例はある。安全保障分野に限っても、2010年には神奈川新聞・長崎新聞・沖縄タイムスの3紙が合同取材チームをつくり、約80回に及ぶ長期連載「安保改定50年 米軍基地の現場から」を制作した。2013年には山陰中央新報(島根県)と琉球新報(沖縄県)が「環りの海」と題する連載を合同で取材し、60回以上も掲載した。竹島と尖閣という領土問題に足元から迫ったのである。安全保障以外の分野でも、最近では西日本新聞の「あなたの特命取材班」を皮切りに始まった読者応答型の取材ネットワークの存在がよく知られている。

 また、メディア同士の連携ではなく、専門家らと一緒に取材に取り組むかたちもあり得る。例えば、静岡新聞が2019年から展開している大型企画「サクラエビ異変」もその一つだろう。駿河湾では近年、サクラエビの不漁が目立っている。「サクラエビ異変」はそれをテーマにしたキャンペーン型の報道であり、「漁獲規制」「文化」「環境」を大きな方向性に据え、連載はすでに約80回に及んでいる。注目すべき点は、東京大学や海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究者ら10人の「研究会」と連携し、取材を進めている点にある。

 メディア側からすれば、外部の専門家は基本、見解を尋ねる相手、すなわち取材の対象者である。そうした人たちとの協働、すなわち、専門家を取材班に組み込むスタイルは、メディア同士の連携よりも心理的なハードルが低く、成果を生みやすいと思われる。実際、大学の研究者らと手を結んだ企画取材はあちこちに実例がある。

 しかしながら、辺野古新基地への陸自常駐に関する今回の合同取材は、権力監視型の調査報道であるという意味において、企画を主軸にしたこれまでの協働とは質が異なる。

 言うまでもなく、調査報道は先行きの見えない取材を強いられることが多い。終わりの時期やかたちも明確には見通せない。事実確認の手法や裏取りの深度も各メディアによって差があろう。訴訟リスクへの対応もある。権力との向き合い方が先鋭になればなるほど、検討すべき事柄は増える。

 第一、本当に間違えたらどうなるのか? 誰がどんな責任を取るのか? 筆者は現役の記者時代、警察裏金問題の取材班を率いたことがあるが、警察権力と真正面でぶつかり合うようなあの取材で他メディアと組むことができただろうか? 考えれば考えるほど、二の足を踏む材料を思いつく。そこを沖縄タイムスと共同通信は乗り越えてしまった。

 調査報道の合同取材は現場の記者による信頼関係がない限り、なかなか成功しないと思われる。筆者が代表を務める調査報道グループ「フロントラインプレス」は昨年、毎日新聞と合同取材チームをつくり、「ニュースアプリ大手による虚偽広告問題」の調査報道取材に取り組んだ。一連の成果は同3月18日の毎日新聞朝刊(電子版は3月17日)から順次掲載された。

拡大筆者が代表を務める調査報道グループ「フロントラインプレス」と毎日新聞の合同取材チームが報じた2020年3月18日の毎日新聞朝刊

 日本の大手紙が外部者と調査報道の合同取材チームをつくり、その成果を連名でニュース記事として掲載した実例はほとんどないと思う。このときの取材対象は上場企業であり、ストレートな権力監視型の調査報道ではなかったが、「〜ことが毎日新聞と調査報道グループ『フロントラインプレス』の調べで明らかになった」で始まる調査報道記事が全国紙の1面に掲載されたことは、それなりの画期性があったと自己評価している。

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筆者

高田昌幸

高田昌幸(たかだ・まさゆき) 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

1960年生まれ。ジャーナリスト。東京都市大学メディア情報学部教授(ジャーナリズム論/調査報道論)。北海道新聞記者時代の2004年、北海道警察裏金問題の取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞を受賞。著書・編著に『真実 新聞が警察に跪いた日』『権力VS調査報道』『権力に迫る調査報道』『メディアの罠 権力に加担する新聞・テレビの深層』など。2019年4月より報道倫理・番組向上機構(BPO)放送倫理検証委員会の委員を務める。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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