「コロナで死ぬか 社会で死ぬか」かつてない窮状、誰ひとり取り残さぬ社会を
2021年02月02日
厳しくなるばかりのコロナ禍で、子ども・若者の貧困問題は、臨界点をとっくに超えている。政府が再度の緊急事態宣言を発出するに至り、以前から困窮している世帯はいっそう過酷な状況に追いやられ、貧困とは無縁だった世帯も家計急変などで一気に困窮に追い込まれる例が少なくない。
私は30年以上、遺児支援などを通して困難にあえぐ家庭と接してきたが、これほどまでに多くの切羽詰まった「助けて」の声を聴いたことはなかった。生活保護だけでは解決できない、命の危機が爆発的に進行している。
困窮する子育て世帯への、政府による給付金支給は急務だ。これからの年度末は、入学や新生活の準備で多額の費用が必要になり、厳しさが極まる時期になる。支援は年度内に、つまり来月(3月)までに届けなければ、子どもたちの未来が閉ざされかねない。
開会中の通常国会で、「子どもの貧困給付金法案」が提出された。民間の支援現場からの意見をふまえ、野党4党(立憲民主、共産、国民民主、社民)が共同で提出したものだ。私も、1月22日の法案提出後の4党の記者会見に、NPO法人キッズドアの渡辺由美子理事長らとともに同席した。
法案は、低所得の子育て世帯に対し、給付金を3月に支給することを目指す内容だ。緊急性とともに、今回、特に求められるのは、「両親がいる世帯」も給付対象に加えることである。
政府のコロナ禍対策では私たち支援団体や当時者、研究者らの粘り強い要望が実り、「ひとり親世帯」にはこれまで2回、「臨時特別給付金」が実現した(1回目は昨年6月成立の第2次補正予算で、2回目は12月に予備費で)。しかし、「両親がいる世帯」は対象とされず、政府の支援から抜け落ちていた。
「ひとり親世帯」では、2回の支給のおかげで何とか悲劇を免れ、年を越せたという例が少なくなかった。しかし、今年に入っても感染拡大はおさまらず、「コロナ切りで仕事を失い絶望している」といった声が次々に届くようになった。奈落の底に突き落とされている家庭が増えている。
苦しいのは、「両親がいる世帯」も同じだ。低所得で子どもをかかえる世帯は極めて厳しい生活を強いられ、病気や失業、別居など様々な理由で貧困に陥ってしまう。しかし、ひとり親世帯のような公的支援は皆無だ。わが国の全労働者の4割が非正規雇用である。コロナ禍以前は、両親ともに非正規雇用でも、なんとか共働きでやりくりをしていた子育て世帯が、失業や大幅な減収で追い詰められている。親が外国籍の世帯も増え続けており、くらしは容易ではない。
「自助」の限界は、すでに超えている。いまこそ手厚い「公助」が必要だ。
まずは、すべての低所得の子育て世帯への臨時特別給付金の実現に向け、今国会で、超党派の取り組みを期待している。先週成立した今年度の3次補正予算には、総額19兆円以上の経済対策が盛り込まれたが、こうした給付金は含まれなかった。
私たち子どもの支援に取り組む団体の代表者らは、野党のみならず、与党の国会議員にも働きかけ、前向きに検討していただいている。何とか、予備費での実現を願いたい。
その3日後の29日には、菅首相は早速、シングルマザーや非正規労働者と首相官邸で面会し、コロナ禍による生活支援に関する要望を受けた。その場には、田村憲久厚生労働大臣も同席した。案内した川内議員によると、首相は、ひとり親世帯などへの給付金やすべての非正規への休業支援金の支給について、「今ある制度を含めて何らか検討する」「私が話を聞いたんだから」と前向きな姿勢を示したという。
日本中で苦しみ続けている子どもや親にとって、とても心強い言葉だ。ぜひとも実行していただきたい。
本稿ではこれ以降で、コロナ禍での子どもの貧困の現状と、政府と社会に求められる対応について、支援の現場からお伝えできればと思う。
私が代表を務める子どもの貧困対策センター「公益財団法人あすのば」では、昨年春以降、多くの団体や研究者とともに、政府や自治体、政党に実効性の高い対策を速やかに実行するよう、政策提言と働きかけを続けてきた。また、独自の緊急支援給付金事業などもあわせて、コロナ禍対策に全力をあげた1年だった。
(拙稿「コロナ緊急対策、政府制度設計はお粗末『子どもの貧困』危機に拍車」もご参照ください)
「あすのば」では、昨年3月からの全国一斉休校などを受け、感染が急拡大した4月初旬から5月にかけて、子どもたちへの影響と必要な支援策を探るために、高校生・大学生世代への聴き取り調査を実施した。
以前から奨学金やアルバイトで生計を立てている若者が多く、コロナ禍以前から生活が厳しい状態だった。そこへ、最初の緊急事態宣言を受けてアルバイトの減少が顕著に表れ、生活そのものの不透明感が増し、脅かされている実態が明らかになった。この聴き取り調査で頻出する単語を分析したところ、「コロナ」、「アルバイト」、「奨学金」といった言葉が多く、それらを裏付ける結果となった。
長引く休校の影響もあり、子どもや若者の声や気持ちなどを周囲の大人がていねいに聴くことができず、置き去りになっていた。
聴き取り調査から、2人の若者の声を紹介したい。
〇この春、高校を卒業し「日本文化を外国人観光客に伝える」地元企業の内定が取り消しに。アルバイトも十分できず、家にお金を入れることもできず時間だけが過ぎる。
〇生活面では、アルバイト先がコロナの影響で廃業・休業となり、本日以降の収入面で不安がある。心境としては、「コロナで死ぬか。社会で死ぬか」だと思う。
この調査など、子ども・若者の実態を踏まえ、5月には、「あすのば」独自に、コロナ禍の「緊急支援給付金」をおくることを決断した。広く全国民にご寄付を呼びかけ、お金による経済的な支援のみならず「あなたのことを想っている人が『ここにいるよ』」というメッセージも伝える事業だ。私たちが最大限用意することが見込める給付枠として全国2,500人分を計画し、発表した。
緊急支援の第一弾として、「あすのば」が毎春続けている「入学・新生活応援給付金」の申込者のうち、2019年に募集定員を大幅に超えたため残念ながら不採用となってしまった1,300人を対象に、一律3万円を送った。6月には第二弾として、行政支援が不十分な高校生らを対象に、コロナ禍による家計急変や生活困難となった1,200人に一律4万円を送る事業を開始。こちらには、募集の半月間に定員の5倍の5,867人からの申し込みが殺到した。
応募受付とともに、この緊急支援への募金を呼びかけ、21,802人から1億8673万4372円ものご寄付が寄せられた。おかげさまで、追加給付を含めて当初の計画の2倍にあたる合計4,990人の子どもたちに累計1億8674万円もの給付金を送ることができた(2020年12月31日現在)。
こうした緊急支援は、コロナ禍の実態を明らかにし、公的支援の必要性を行政や社会に働きかけるためのモデル事業として実施してきた。応募した高校生やその保護者からは、以下のような悲痛な声が寄せられた。
〇収入が減って高校の学費を捻出するのも厳しくて食事を一食にするなど食費を削って生活しています。
〇高校の通学費も出せないでいます。助けて下さい。
〇今のままでは、子どもの高校の部活ができなくなります。助けて下さい!子どもの夢を壊したくない・・。ごめんなさい・・。情けない母親です。
〇中学生や大学生には支援策があるが、高校生への支援はまったくなし。学費も止まることなく引き落としが続き、私の収入は減る。子どもたちは家にいるので、公共料金やオンライン授業の通信費もかかり大変困っております。どうか助けてください。
「ごめんなさい。情けない母親です」などと自分を責める親たちの声が多く、それらを読んで心が痛むばかりだ。
一昨年、子どもの貧困対策法が改正され、「子どもの貧困対策は、子どもの貧困の背景に様々な社会的な要因があることを踏まえ、推進されなければならない(第2条3)」と明記された。厳しい状況に追い込まれていることは、親の責任ではなく、ワーキング・プアなどコロナ禍以前からのさまざまな構造的な社会の課題が露呈しているのである。
切実な声を受け、支援現場の多くの関係者と協調し、政府や東京都、政党への働きかけを強めた。
5月18日には、超党派の国会議員による「子どもの貧困対策推進議員連盟」の役員会(会長は田村憲久・自民党コロナ対策本部長〈当時=現在は厚労大臣〉)が開催され、しんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石千衣子理事長、末冨芳・日本大学教授、キッズドアの渡辺由美子理事長とともに、ひとり親を含む子どもの貧困世帯への現金給付の上乗せなどを要望した。翌日、要望に関する記者会見を実施し、朝日新聞はじめ報道各社が広く報じた。
これらを受けて、8月以降に低所得のひとり親世帯への「臨時特別給付金」の支給が実現した。各世帯に5万円、第2子以降3万円ずつ加算し、さらに感染拡大の影響で収入が減った場合は5万円が追加された。
11月10日には、「子どもの貧困対策推進議員連盟」の総会が開催され、「あすのば」をはじめ、子ども・若者を支援する10団体と地方議員、研究者ら12人がコロナ禍対策・来年度予算に向けて要望を発表。これらの結果、12月末までに低所得のひとり親世帯への「再給付」が実現した。前回同様、各世帯に5万円、第2子以降は3万円ずつ加算された。また、高校生への給付型奨学金の「奨学給付金」は、第1子が26,100円、第2子以降が12,000円の上乗せとなった。
このような状況下で、今後必要とされる主な施策は、以下のとおりである。
冒頭で述べたように、今、最も必要なことは、給付金を年度内に支給することだ。「ひとり親世帯」には給付を継続するとともに、昨年春以来、強く要望してきたにも関わらず見送られてきた「両親のいる子どもの貧困世帯」にも、同様の制度をいち早く実施しなくてはならない。
その際、手続きと給付方法がポイントになる。くらしに追われる困窮世帯は、手続きをすることが大きなハードルになってしまうからだ。自治体の事務作業を極力、減らすことも大切だ。そこで、私たちが提言した住民税非課税世帯への現金給付であれば、自治体は迅速に実施できる。昨年、国民一律に10万円を配った特別定額給付金の口座に送金すれば、新たな手続きもいらない。
同時進行で取り組むべき施策は膨大にあるが、いくつかを簡単に説明したい。
まず、コロナ禍による経済的事情のために、子どもたちを、高校・大学・専門学校などから中退させてはならない。学費は特に、大変な負担だ。軽減策や奨学金制度、入学時の支援など、できるはずのことは多い。
学校に通っていない同世代の子どもたちにも、厳しい生活の中で生き抜いていけるような支援が必要だ。卒業したり中退したりしても、進路や職が決まらない子がいる。新生活への支援は乏しい。職に就けても、厳しい経済環境のもとで、事業者側が人材を一人前に育てる余裕を持ちにくくなっている。
子どもの自殺防止への取り組みも大切だ。11月の小学生から高校生までの自殺者数は、前年同月比で倍増している。子どもたちが絶望に追い込まれることがないような支えが求められている。
弱い立場の人たちほど、ダメージが強く、長期にわたるという問題もある。阪神・淡路大震災や東日本大震災では、私も支援や調査に携わってきたが、従前から生活基盤の弱かった人々ほど復旧・復興から取り残される傾向があった。
コロナ禍においても、困窮世帯の保護者の雇用や生活が安定するまでには、かなりの時間が必要になると思われる。もれのない現金給付などの支援とともに、失業者や、特に非正規雇用で減収した人々への十分な雇用対策と収入保障も不可欠だ。
2018年の子どもの貧困率は、13.5%で3年前より少し改善されたが、次の調査年である今年の貧困率は、十分な対策をとらないと大きく悪化するのではないかと危惧している。
ますます「社会」から切り離されてしまい、孤立が深まるのではないかと憂慮している。支援団体による孤立防止への寄り添い支援なども、従来のようには実施できない現状だが、感染防止策をした上で、できる限りの支援の再開や、支援への資金面での支え必要だ。
私たち「あすのば」の最新の事業では、さらに深刻な状況が見えつつある。
小学校や中学校への入学と、中学校や高校からの卒業を迎える子どもたちを対象とした「入学・新生活応援給付金」事業では、今春から、コロナ禍により「住民税非課税相当」に家計が急変した世帯も新たに対象に加えることにした。すると、昨年12月17日までに、定員2,600人の3倍を超える8,300人以上の申し込みがあった。過去最多で、昨夏の緊急支援での5,800人を大幅に上回った。
ひとり親世帯のみならず、両親のいる子育て世帯からの応募も多い。今後、家計状況の変化など給付金申請者のデータの分析をすすめ、エビデンスに基づく政策提言につなげていきたい。
通常国会では、与野党の審議が本格化してきた。まずは、4党が共同提出した「子どもの貧困給付金法案」の内容について、超党派でしっかりと議論をしていただきたい。進学や新生活の準備に間に合うよう、年度末までの給付が必要だ。そして、前述のすべての提言をいち早く実現してほしい。
年末から、医療崩壊の訴えが強まり、在宅死の情報も目立ってきた。日本がこんな事態になるとは、少し前までは想像できなかった。現実は厳しい。
生活が困窮する子育て世帯には、事態が一層、重くのしかかっている。厳しさの実感、冷たさの体感が全く違う世界を生きているのだ。平時でも、薄氷の上をおそるおそるふみしめるようにして、肩を寄せ合ってぎりぎりの日々をしのいできた。今、氷が割れて、厳冬の海の底に突き落とされるのではないか。長年、支援の現場にいるものとして、かつてないピンチの到来を実感する。孤立が深まり、訴えるすべもなく、さらに自殺が激増しないかと危惧している。
「人が死なないと動かない」と批判されることも少なくないが、昨年末のひとり親世帯への給付金は、未然に多くのいのちを救ったと言っても過言ではない。二度と悲劇を繰り返してはならない。
全国、全世界の民が、コロナ禍の当事者である。すべての方々が、自らの経験から、困難を抱える人の問題を、「他人ごと」ではなく「自分ごと」として考え、行動につなげていただけるのではないだろうか。
子どもや若者が、だれひとりとして取り残されることなく、コロナ禍でも生き抜いていくことができる社会づくりを、多くの方々とともに進めていきたい。
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