赤木智弘(あかぎ・ともひろ) フリーライター
1975年生まれ。著書に『若者を見殺しにする国』『「当たり前」をひっぱたく 過ちを見過ごさないために』、共著書に『下流中年』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
不正確な高須院長のツイートをそのまま報じたメディアの責任
だが、それが分かるのは、こうして高須氏が引用したツイートの内容の真偽をしっかりと把握したからである。ちゃんと調べずに記事を読んだだけでは先にも記したように、大村知事が最初から無効票が8割であると主張し、選管がその発言に沿った数字を出しているかのように読めてしまうのである。
確かに高須氏はそうツイートしたのだから、けっして東スポが事実をねじ曲げたわけではない。東スポは「高須氏がそうツイートした」としか言っていない。それは確かに正しい。
だが東スポは、高須氏のツイートに引用された匿名アカウントによるツイートの存在を報じなかった。そのことによって、高須氏が匿名アカウントの曖昧な情報を得てツイートをしているという部分がそぎ落とされ、さも高須氏が何らかの確信的な根拠を持って、ツイートをしているかのような意味合いに置き換わってしまっているのである。
このように、不正確な情報から不正確な部分をそぎ落としてマスメディアが報じることで、不正確であったはずの情報が、さも何かしらの真っ当な情報源が存在するかのように装われてしまう。このことを「ソースロンダリング」という。
今回の例では最初は、匿名の人が「大村知事が不正8割だと言っていたはず」とツイートをしたというだけのことを高須氏が取り上げ「誰も署名簿見れない時期からの大村知事の発言。何故?」とツイートをした。
これを東スポが「高須氏がこう主張している」とだけ報じ、不正確は部分を削ることで、東スポの記事だけを見た人はさもリコール提出時点で「大村知事は無効票が多数存在してると発言していた」かのように認識してしまうのである。
マスメディアが意図せずともソースロンダリングに手を貸すことは、結果的にフェイクニュースの発生に寄与していると言っていい。東スポは高須氏のツイートと共に「高須氏のツイートの元となったツイートは、根拠が不確かであること」もちゃんと報じる必要があったのである。
東スポと言えば以前から「日付以外は嘘」などと言われている。もちろん記事が嘘ということはなく、大見出しのユニークさや、独自性の強い記事などから、親しみを込めてそう呼ばれている。しかし、そうした評価のありかたがフェイクニュース全盛の現状に至っては「ちゃんと報じないことの言い訳」として通用してしまってはいないだろうか。
嘘と呼ばれてなお社会に通用するためには、当然「しっかりと取材をしている。事実確認をしている」という裏打ちが必要となる。しかし今回の記事のような「著名人がこんなツイートをしていました」という記事群には、そうした裏打ちがあまり見られない。
だが、それを批判すると「東スポの記事を本気で受け取る方がバカ」とネットで言うところの「ネタにマジレス」の考え方で笑われてしまう。そうした嘲りの声を恐れず、批判するべきはしっかりと批判していく必要があるのである。
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