メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

森喜朗元首相を尊大にさせた政治記者たち~「女性蔑視」発言は今に始まったことではない

高田昌幸 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

森氏の重大発言をスルー

 このときの森発言が問題視されるのは、5日後の7月1日、社民党の山内恵子衆院議員(当時)らが森氏に抗議文を出してからである。山内氏らは鹿児島での様子を伝えるテレビ番組で森発言を知ったらしい。

 発言の5日後まで森発言に全く触れなかった各紙は、山内氏らの抗議活動を伝える形で、この女性蔑視発言を初めて報じた。ただし、確認できた範囲では、ほとんどの記事が目立たたぬ扱いに終わっている。文字数は各紙ともおおむね300字前後。いわゆるベタ記事か、それに近い扱いだ。

 では、森氏の発言が飛び出したシンポジウムそのものも、新聞各紙は報じなかったのか。そんなことはなかった。催しに関する記事自体は掲載されている。ただし、力点が違った。実はこのシンポジウムでは、もう1つの重大な女性蔑視発言が行われていた。発言主は前掲の太田誠一氏。報道によると、太田氏は以下のように述べたとされる。もっとも、太田発言を報じた各紙も決して大きな扱いではない。シンポジウム翌日6月27日の産経新聞朝刊から全文を引こう(大阪本社版)。記事は社会面に掲載されている。

 イベント企画サークルメンバーの早大生らが女子大生を集団暴行した事件について、自民党の太田誠一元総務庁長官が二十六日、鹿児島市内のホテルで開かれた少子化問題などをめぐる討論会で、「集団レイプする人はまだ元気があるからいい。まだ正常に近いんじゃないか」と述べた。集団暴行を肯定する発言とも受け取られかねない。
 討論会は、評論家の田原総一朗さんが司会を務め、森喜朗前首相らも参加。太田氏は少子化の原因を議論する中で「(男性に)プロポーズできる勇気がない人が多くなっている」と指摘。
 田原さんが「プロポーズできないから集団レイプする(のか)」と問い掛けたのに対し、「元気があるからいい」と応じ「そんなこと言っちゃ、また怒られるけど」と述べた。
 太田氏は討論会後、記者団に「『レイプは重大な犯罪で従来以上に厳しく罰せられないといけない』という言葉を付け加えようとしたが、時間とタイミングがなかった。残念だ。(一般的に)男性に元気がないということを強調した表現だった」と釈明した。

 森氏による「子どもつくらない女性 税金で面倒はおかしい」発言は、このレイプ容認発言も飛び出す中で行われていたのである。太田発言の出稿に追われて、森発言の記事をつくる余裕がなかったのか? そんなことはあるまい。手練れの記者なら、公の場での発言をマス目に落とし込んでいく執筆作業など30分もあれば十分だ。しかし、そうはならず、太田発言のほうを総じて地味な原稿に仕立てただけある。

 シンポジウム翌日、鹿児島県の地元紙・南日本新聞にはこの催しに関する記事が掲載されている。「少子化など議論、私立幼稚園九州地区大会/鹿児島市」という見出しを掲げた400字足らず。完全なイベント紹介の記事であり、森氏の発言に触れた記述は、以下の部分しかない。前後の記事から類推すれば、この取材はおそらく、地元での出来事やイベントをこまごまと伝えるニュースの1つとして企図され、中央政界での取材経験を持たない文化系の記者が現場に赴いたのではないかと思われる。

(前略)少子化問題について森前首相は「若い人の価値観が変わり、子どもを増やすための理屈が見つからない」と話した上で、社会保障費に対して少ない教育費の見直しと、幼保一元化によって、保護者により幅広い選択肢を準備する必要があることなどを強調した。(後略)

 結局、かいつまんで言えば、全国メディアの記者は森発言の重大さに気づかず、スルーしたということである。政治の記者やデスクなどにすれば、首相やその経験者とは夜の懇談などを通じて長い付き合いがあり、オフレコの場で数々の放言を聞いてきたはずだ。そうした文脈からすれば、鹿児島での森発言を聞いても、「いつもの調子だな」とか、「聴衆のウケを狙っての発言だなあ」とか、そんな程度の認識しか抱けなかったのだろうと思われる。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

高田昌幸

高田昌幸(たかだ・まさゆき) 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

1960年生まれ。ジャーナリスト。東京都市大学メディア情報学部教授(ジャーナリズム論/調査報道論)。北海道新聞記者時代の2004年、北海道警察裏金問題の取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞を受賞。著書・編著に『真実 新聞が警察に跪いた日』『権力VS調査報道』『権力に迫る調査報道』『メディアの罠 権力に加担する新聞・テレビの深層』など。2019年4月より報道倫理・番組向上機構(BPO)放送倫理検証委員会の委員を務める。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

高田昌幸の記事

もっと見る