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森会長の発言をきっかけに、日本スポーツ界は変わるか

会長個人への反感が、オリンピックにまで飛び火

増島みどり スポーツライター

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)がJOC(日本オリンピック委員会)評議会での発言について2月4日、謝罪会見を行った。謝罪するはずなのになぜか喧嘩腰で、とても高圧的で、記者の問いに対して「もう聞きたくない」「面白おかしくしたいから聞いてんだろ」と言葉遣いも荒れた。この会見前、「辞任を覆すよう説得された」と、後に報じられたが、そんな様子には全く見えなかった。会見の趣旨を理解すれば忍耐しなくてはいけないところ、それさえできなかった様子を現場で取材しながら、「火に油を注ぐ」だけだった意図不明な会見だと感じた。

 冒頭「発言を撤回して謝罪をする」と話したが、政治家が永田町で使う、有権者や野党の批判をかわすための独特の手法をいきなりスポーツの現場に持ち込まれたのにも違和感を覚えた。

 「女性がたくさん入る理事会は時間がかかる」との根本的な考え方への、社会的、国際的反響は、発言の撤回で収まるはずはなく、元政治家個人への批判では済まないものだ。何を、どうやって、どんな様子で誰に謝罪し、さらに改善策を示していくのか。オリンピックという国際的ビッグイベントを束ね、国内外の関係者、選手、人々に支持を得ようというトップの謝罪として、あらゆる方面への反響を熟慮すべきだったのではないか。

 ただでさえ「8割が東京五輪開催に反対」(1月共同通信世論調査による)と、新型コロナウイルス下での開催に苦しみあえぐ「オリンピック」の機運、選手の意欲にまで、人々の反発や嫌悪感を与えた痛手は大きい。

発言の背景、日本スポーツ界の男女不平等の現状

拡大会見を終えた森会長=2021年2月4日、東京都中央区

 何の決定権や権限もない名誉委員として出席したJOC評議会で、森氏が「女性理事4割というのは、文科省がうるさく言う」などと挨拶したのには背景がある。突如、女性への差別発言をしたのではなく、スポーツ界が取り組まなくてはならない課題が前提だ。

 2014年、IWG(国際女子スポーツワーキンググループ)は、国際的な女性スポーツ発展のために10の項目で「ブライトン・プラス・ヘルシンキ宣言」を掲げ、五輪・パラリンピック開催に向かう日本も世界各国と同様に17年にこれに署名をした。

 宣言では、女性理事の目標割合を「2020年までに40%」とし、文科省・スポーツ庁もこれに基づき19年6月、国内スポーツの中央競技団体向けに「スポーツ団体・ガバナンスコード」で、「外部理事の目標割合25%以上、及び女子理事の割合目標40%以上を設定するとともに、達成に向けた具体的な方策を講じる」と指針を課した。

 各競技団体とも努力はしているものの、19年に各競技90団体に行った実態調査(笹川スポーツ財団)では、女性理事の割合は目標を大きく下回る15.6%。スポーツ団体の役員(役員とは会長、副会長、理事長、副理事長、各種理事、監事)に女性が占める割合はわずか9.4%だった(内閣府男女共同参画局調べによる)。

 目標と実態が大きく乖離した、男性主導の日本スポーツ界は、五輪をきっかけに変化を求め、壁をひとつ突破したい位置にある。それを率先すべき団体JOCの挨拶で、「(目標値を定めた)文科省がうるさく言う」とか、それが進まない理由を「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」(ともに評議会でのあいさつから)、「(女性理事を多くする指針を)守るのに皆さん苦労している」(謝罪会見)と、問題を女性の資質にあるかのように矮小化してしまう現状認識こそ、目標にたどりつけない、あるいは向かおうとしない勢力のシンボルのように映る。

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筆者

増島みどり

増島みどり(ますじま・みどり) スポーツライター

1961年生まれ。学習院大卒。84年、日刊スポーツ新聞に入社、アマチュアスポーツ、プロ野球・巨人、サッカーなどを担当し、97年からフリー。88年のソウルを皮切りに夏季、冬季の五輪やサッカーW杯、各競技の世界選手権を現地で取材。98年W杯フランス大会に出場した代表選手のインタビューをまとめた『6月の軌跡』(ミズノスポーツライター賞)、中田英寿のドキュメント『In his Times』、近著の『ゆだねて束ねる――ザッケローニの仕事』など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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