オンラインツアーの実力〈隠岐・沖縄編〉コロナ禍が生んだ新しい旅の形
【11】離島観光の危機に挑む ITと知恵と汗の融合
沓掛博光 旅行ジャーナリスト
コロナ禍で大打撃。模索する旅行業界
新型コロナウイルスのワクチン接種が国内でもいよいよ始まったが、「以前の生活にいつ戻れるのか」という不安と「早く戻ってほしい」という願望が交錯する中での暮らしに大きな変わりはない。
総務省が5日に公表した2020年分の家計調査では、外食や旅行の支出が大幅に減る一方、感染予防のマスクなどの保健用消耗品やゲームソフト、家電の購入などが増え、コロナ禍のもとでの消費動向が見て取れる。中でも、パック旅行費は前年より7割減、航空運賃は8割近く、鉄道運賃は6割以上も減った。緊急事態宣言などによる外出自粛の要請が旅行を直撃した感がある。観光で経済の推進を図る地域にとっては大打撃と言える。
苦境を切り開こうと、旅行業界では、ITの時代だからこそ可能になったツアーが各地で動き始めた。「オンラインによるツアー」である。その実態やこれからの展望などを体験取材を交えながらお伝えする。

本州と隠岐の島々を結ぶ隠岐汽船のフェリー=隠岐汽船(株)提供
遠い離島の旅を自宅で楽しめる
まず紹介するのは、島根県の隠岐諸島でのオンラインによるツアー。これは島根県自然環境課がマスコミ関係者を対象に昨年12月から今年3月まで4回に分けて実施している企画で、第2回となる1月末のツアーに参加させていただいた。
隠岐諸島は島根半島から北へ40~80㌔の日本海上に浮かび、4つの有人島と180余りの無人島が集まる。大別して島後(どうご)と島前(どうぜん)の2地域に分けられ、有人島は、島後には島後(隠岐の島町)1島が、島前には中ノ島(海士町・あまちょう)、西ノ島(西ノ島町)、知夫里島(ちぶりじま、知夫村・ちぶむら)の3島がある。
ツアーではこれら4島を、「隠岐4大社巡り」をテーマに訪ねる。私が体験したのは、このうちの島後(隠岐の島町)へのツアーだ。オンライン会議システム「Zoom」を使い、ライブ映像による現地の方々の案内とVTRで構成する約2時間の旅を、遠く離れた自宅あるいは事務所等の画面を通して楽しめる。単に画面をながめるだけでなく、事前に自宅などに送られてくる様々なグッズを使って、同時進行で「体験」を重ねる工夫が凝らされている。
観光客ゼロから始まった隠岐のオンラインツアー
隠岐諸島の玄関口のひとつである隠岐の島町の西郷港へは、本州の七類(しちるい)港(松江市)からフェリーで約2時間半、高速船で約1時間10分で着く。空路では、伊丹空港や出雲縁結び空港と島後の隠岐世界ジオパーク空港が結ばれ、それぞれ50分、30分。離島とはいえ交通の便は比較的恵まれている。
しかし、コロナ禍がこの諸島を直撃した。隠岐観光協会によると、年間およそ6万人が訪れていた観光客が激減。角橋隼人事務局長(47)は「昨年の4~7月はゼロでしたが、それ以降はGo Toトラベルもあって前年度並みに回復し、今はまた、大変少なくなっています」という。そこで、新たに登場したのがオンラインによるツアーである。
県が主催する今回のツアーは、隠岐ユネスコ世界ジオパーク推進協議会がコーディネートし、地元の旅行会社「島ファクトリー」(海士町)が運営に協力している。
島ファクトリーは、昨年4月から会社独自に15回のオンラインツアーを成功させた実績がある。ツアー責任者の篠原絢子さん(31)は「コロナの影響が続く中、旅行会社としてどう対応するか、会議を重ね、旅に出なくても島の魅力が感じられるリモートトリップという結論に達したのです」と経緯を語る。推進協議会の野邉一寛事務局長(58)は、これまで東京や大阪などでPRすると「隠岐はどこにあって何があるかわからない。イメージもわかない」との声を聞かされてきた。コロナ禍も受けてオンラインに目を向け、「隠岐に来てもらうきっかけづくりになれば」と位置づける。
では、1月のツアーの体験をお伝えしていきたい。