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オンラインツアーの実力〈隠岐・沖縄編〉コロナ禍が生んだ新しい旅の形

【11】離島観光の危機に挑む ITと知恵と汗の融合

沓掛博光 旅行ジャーナリスト

拡大水若酢神社でのオンライン参拝のパソコン画面。忌部宮司に突然、吹雪が=筆者撮影

悪天候で島に着けない日。Zoom画面の旅は快調

 スタートは、Zoom画面に用意されている。開始時刻の15時に、進行役の篠原さんが画面に登場して挨拶し、ガイドを務めるスタッフら計6名の顔写真も映し出され、ツアーらしい雰囲気に。続いて、画面は島の玄関口の西郷港に移る。当初は本州からのフェリーが到着する様子から映す予定だったが、天候不良で運行中止に。

 実際の旅行なら島に行けないところだが、そこはオンラインのよさで、港に到着した後からの旅が始まる。

 推進協議会の野邉事務局長が出迎え、昨年10月に港にオープンしたジオパークの拠点施設「隠岐ジオゲートウェイ」を案内しつつ、島の特徴をさらりと紹介。隠岐の島は2人の天皇が配流されたことで知られるが、それは何故なのか。2000メートル級の高山で育つ植物が海辺近くでも生育する特異な自然形態、などなど。ツアーへの期待を高めてくれる。

格式高い神社へオンライン参拝。宮司に突然の吹雪

 カメラはスイッチし、水若酢神社(みずわかすじんじゃ)の中継に入る。ここでは、忌部正孝宮司(73)による祈願と案内が行われた。ガイドは、ブータンからの留学生で隠岐島前高校3年の野口ウゲンチョデェイさん。高校に入ってから日本語を学んだということだが、なめらかに忌部宮司と話し、参加者と共に参拝した。

 「オンラインによる参拝は初めてですが、コロナの早い収束と、皆様の旅の無事を祈念し、身が引き締まる思いがしました」と宮司。そして、ツアー後の取材では、「今後は体が不自由で参拝したくとも来られない方へ、こうしたオンラインによる参拝があってもいいのかなと思いました」と語ってくれた。

 本殿に向かう宮司の背に、突然降りだした雪が吹き付け、「機材は大丈夫かな」などスタッフの声も聞こえたりして、ライブ感が伝わる。

 宮司の説明では、水若酢神社は約1800年の歴史を持ち、忌部家は約700年続き、23代目という。「延喜式」の神名帳に記載された明神大社(約230社)の1社で、隠岐諸島にはこの明神大社が4社ある。小さな地域に何故4社も集中してあるのか。

 「隠岐諸島は日本海をはさんで中国大陸や朝鮮半島があり、ここは国境となるところ。そこで神の力により国を守る必要があったため、4つの大社が祀られたのではないでしょうか」との推測をツアー後にうかがった。

重文の本殿を堪能し、古典相撲をしのぶ

拡大水若酢神社の本殿(左)。隠岐造りの様式で建てられている=隠岐ユネスコ世界ジオパーク推進協議会提供
 本殿は1795年の建立で、隠岐独特の様式で建てられ、国の重要文化財になっている。「屋根は出雲大社、向背(ひさし)は春日大社、神殿は伊勢神宮の神明造と、歴史ある3つの大社の造りを取り入れた隠岐造りと呼ばれる建築様式です」と忌部宮司。本殿は20年に一度遷宮され、昔はこの時に「遷宮相撲」が行われていたとの説明に移る。「今は古典相撲と呼ばれ、隠岐の伝統的な行事のひとつです」という。

 古典相撲は、現在は校舎や庁舎といった公共の建物などが完成した祝にも行われ、かつては3日3晩とり続けられていたが、24時間と短くなったという。それでも、力士達は地域の名誉をかけて懸命に戦い、最高位の大関の座を争う。勝負は2回で、常に1勝1敗で終わる。1番目に勝った方が試合の勝者となり、2番目の勝負は相手に勝ちをゆずって遺恨の無い結果で終える。

 「勝敗を分かち合うので『人情相撲』とも言います。隠岐の島の人の優しさが感じられる相撲です」と忌部宮司。2007年に川上健一氏の小説「渾身」(集英社)で取り上げられ、13年に映画化もされたので、ご存知の方も多いだろう。

 今年は9月に役場の新庁舎が竣工するので、古典相撲が行われる予定だが、コロナの影響でどうなるかわからない。「できたらいいなと思います」と忌部宮司の心境を伝えて、画面は進行役の篠原さんに変わる。

おみくじを自宅で開封

 「水若酢神社のおみくじを開けてみましょう」と篠原さんが呼びかけ、参加者は事前に送られていた箱からおみくじのダルマをだす。

 パソコン画面には参加者がおみくじを出す姿が映り、早速、チャットやマイクを通して「吉です」「小吉」などの反応が寄せられる。こうした同時進行の体験共有は、オンラインの楽しさかも知れない。

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筆者

沓掛博光

沓掛博光(くつかけ・ひろみつ) 旅行ジャーナリスト

1946年 東京生まれ。早稲田大学卒。旅行読売出版社で月刊誌「旅行読売」の企画・取材・執筆にたずさわり、国内外を巡る。1981年 には、「魅力のコートダジュール」で、フランス政府観光局よりフランス・ルポルタージュ賞受賞。情報版編集長、取締役編集部長兼月刊「旅行読売」編集長などを歴任し、2006年に退任。07年3月まで旅行読売出版社編集顧問。1996年より2016年2月までTBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」旅キャスター。16年4月よりTBSラジオ「コンシェルジュ沓掛博光の旅しま専科」パーソナリィティ―に就任。19年2月より東京FM「ブルーオーシャン」で「しなの旅」旅キャスター。著書に「観光福祉論」(ミネルヴァ書房)など

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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