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Qアノンと日本発の匿名掲示板カルチャー【2】

西村博之とジム・ワトキンスの2ちゃんねる骨肉の争い/下

清義明 ルポライター

Qアノンと日本発の匿名掲示板カルチャー【1】

 2006年、西村氏は多発する民事裁判には出廷しないことも多くなり、メディアに姿を現さずに雲隠れするようになっていた。しかし一方ではネットには時折現れて「年収は日本の人口より少し多いくらい」というようなことをうそぶきながら、続発する民事裁判にも「(裁判に)勝とうが負けようが、(賠償金を)払わなければ一緒」と吹聴してまわっていた(注1)

 「『2ちゃんねるはアメリカのサーバーでアメリカのサービスです』と言い張った途端、日本の法律がなにも通用しない」(『僕が2ちゃんねるを捨てた理由』西村博之、扶桑社)というのが、2ちゃんねるのビジネスのコアコンピタンスということも豪語していた。これはジム氏が自らてがけていた無修正のポルノサイトが海外にあるから日本では罰せられないというビジネスモデルと同じ理屈だ。ようするに脱法ビジネスなのである。

西村氏の自宅に家宅捜索

拡大西村博之氏=2005年10月7日
 そんな西村氏だが、2008年1月に突然「2ちゃんねるを手放すことにした」と表明した。シンガポールの会社であるパケットモンスター社に2ちゃんねるを譲渡するというのだ。これは様々な憶測を呼び、ネットでははやくから会社の実態に疑問がささやかれていた。

 2011年3月27日付の読売新聞は、このパケットモンスター社が経営実態のないペーパーカンパニーだったとの現地調査を伝えている。それによれば、同社の資本金は1ドル。本店登記された場所は会社設立代行会社の住所、取締役も取締役代行をビジネスにしている人だったとのことだ。典型的なタックスヘイブンを利用した節税対策の手法である。

 同紙によるとパケットモンスター社の取締役と登記されている人は「頼まれて役員になっただけで、2ちゃんねるという掲示板も知らない」と証言し、日本から手紙などが来ても日本語が読めないため放置しているとも語った。同社の事務所とされる住所にいた人に聞くと、あっさりと「バーチャルオフィスだよ」と笑っていたそうだ。またジム氏もパケットモンスター社は社員がいないペーパーカンパニーだったと、2ちゃんねる乗っ取り裁判の中で証言している。

 当時、訴訟を多数抱える一方で、未来検索ブラジル社を通じて出資するニワンゴ社が、ニコニコ動画などビジネスで軌道にのってきたことも、このペーパーカンパニー設立の背景にあるのだろう。

 数々の訴訟を海外に会社があると言い逃れて回避するためと、節税のビジネス上のメリットを両立させるために、2ちゃんねるの実態が海外にあるかのようにみせかけようとしたのだろう。この時に2ちゃんねるのドメインもパケットモンスター社に移転されている。

 2011年11月24日から2012年12月3日にかけて、麻薬特例法違反事件と遠隔操作ウイルス事件と関連する書き込みが2ちゃんねるにあったとの理由で、西村氏の自宅、未来検索ブラジル社が4度にわたり家宅捜索された。 以下の家宅捜索とそれから明らかになった事実は、2013年に家宅捜索が違法として未来検索ブラジル社とその子会社でガジェット通信を運営する東京産業新聞社が起こした民事裁判の記録をもとにしている。

 最初の家宅捜索は、麻薬取引が2ちゃんねるに公然と投稿されていたのにも関わらず削除義務を果たさなかったというものだ。書き込みを被害者などの申し立てを無視して放置するのは、2ちゃんねるのいつものことだ。警察は違法な書き込みが蔓延していたことを西村氏が知りながら、削除すれば犯行を防げものを放置したと西村氏の責任を問うた。警察は西村氏の関係先7カ所に削除要請をしたが無視され、これが幇助行為にあたるとしたのだ。この件は結果的には2012年12月に書類送検されながらも、翌年3月に不起訴になった。

 後者は数々の冤罪被害者を発生させ、後に真犯人の男性会社員が逮捕のあとも二転三転しながら結局有罪になった事件だ。この事件については警察の威信かけた捜査が行わたれた。これまで警察の捜査に非協力的だった西村氏が調査に協力しなかったため、西村氏の自宅等の関係先と未来検索ブラジル社に家宅捜索がはいった。

拡大現在も西村氏が管理人をつとめる「2ch.sc」のトップ画面

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筆者

清義明

清義明(せい・よしあき) ルポライター

1967年生まれ。株式会社オン・ザ・コーナー代表取締役CEO。著書『サッカーと愛国』(イースト・プレス)でミズノスポーツライター賞優秀賞、サッカー本大賞優秀作品受賞。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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