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【45】引っ越しシーズンを迎え改めてハザードマップの確認を

福和伸夫 名古屋大学減災連携研究センター教授

君子危うきに近寄らず

 彼を知り己を知れば百戦殆うからず、と言う。敵が強くて怖いと思えば、避けるか逃げる。災害の怖さを知るのに便利なのが、ハザードマップだ。引っ越しシーズンを迎え、家探しの前に確認しておきたい。

 私たちの周りには様々なリスクがある。中でも自然災害によるリスクは大きい。日本は何度も大きな自然災害に見舞われ、手痛い目にあってきた。4枚のプレートがぶつかり合う日本列島では、地震や火山噴火が度々起きる。また、アジアモンスーン地帯に位置することによる風水害や、火山噴出物や付加体でできた脆い地盤の土砂災害など、自然災害の百貨店のような国である。

 怖いものは、「地震・雷・火事・おやじ」と言うが、おやじは、オオヤマジ(大きい風)がなまったとの説もある。先人は、自然と折り合いをつけ、危険を避けて集落を作り、そこに居住してきた。城郭や神社仏閣が比較的安全な場所にあることからも先人の知恵を感じる。

被害を左右するHVE

生徒が学校付近の避難路を調べてつくったハザードマップが校内に掲示されている=2020年10月29日、静岡市

 自然災害による被害は、ハザード(Hazard)、脆弱性(Vulnerability)、暴露量(Exposure)によって左右される。ハザードの原因やその大小を知り、リスクの大きな場所を避けることが被害を免れる基本である。

 ハザードが大きなところに人や物がたくさんあれば被害は大きくなる。ハザードが強ければ、社会の抵抗力がこれを上回るように強くする必要がある。かつての人間は自然に抵抗する術がなく、様々な自然災害にさいなまれてきたので、ハザードの大きな場所を避けたまちづくりや土地選びをしてきた。

 これに対し、今では、土木・建築技術が進化し危険な場所に人工空間を作るようになったため、ハザードを実感する機会が減った。

ハザードの大小を決める誘因と素因

 自然災害には様々ある。代表的な災害として、地震、火山、風水害などがある。自然災害は「誘因」と「素因」によって引き起こされる。

 「誘因」とは、地震、火山、台風や低気圧などの災害を起こす自然現象である。これらが、揺れや津波、豪雨や突風、火山噴出物などの被害の原因を引き起こす。揺れや津波の強さ、雨や風の強さなどは、地形や地質、植生などの自然環境に左右される。これを自然素因と言う。

 だが、地盤改良や、堤防、ダムなどの社会インフラの整備度合いによってハザードは異なる。これが社会素因である。例えば、地震火災のハザードは、風速に加え、時間帯、燃えやすい家屋の密集度合い、消防力や消防水利によって異なる。

地震津波を例にハザードマップを考える

 地震津波を例に考えると、規模の大きな地震が海底下の浅い場所で起きると、広い範囲で海底が大きく持ち上げられ、海面が上昇し大津波が生じる。震源域に近い海岸には、高い津波が早く到達し、リアス式海岸のような凹凸のある海岸地形では、波が集まって津波が高くなる。居住地が海岸に近く標高が低ければ、高い津波が早く到達する。一方で、湾口防波堤や海岸堤防・河川堤防が整備されていれば、津波の力が弱まり、時間猶予ができる。土地が嵩上げされていれば浸水深が減る。

 ハザードマップ作成に当たっては、こういったことを考えて、津波浸水深、流速、到達時間などを計算し、地図上に表現している。しかし、津波ハザードの評価には、地震の発生場所、規模、地形、構造物の存在など様々な要因が関係するため、その評価結果には相当の幅があり、精度にも限界がある。

 このため、場所によるハザードの相対的な違いを知るには有用だが、評価結果の絶対値を鵜吞みすることは避ける

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