記者クラブメディアは、なぜ「文春砲」に勝てないか~才能の墓場と化した記者クラブの光景
経済事件の本質よりもスキャンダリズムに集中する質問
小田光康 明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長
巨大経済不正の本質よりも「ヤクザがらみ」を優先
1990年代終盤、貿易記者会内の関心事は、総合商社が巻き込まれたパチンコの偽造プリペードカード事件に集中していた。反社会的勢力の介入が漂うこのネタには、無頼漢を装う記者クラブの記者にうってつけだった。これが記者クラブ内の同調圧力になり、アジェンダ設定がなされていく。
ただ、この時期の総合商社を含め日本経済の最大の経済的関心事は金融システム危機だった。金融機能を持つ総合商社は関連会社への保証予約や経営指導念書の差し入れなどで減損処理すべき巨額の偶発債務を抱え、一社につき数百億円にも上る年金積み立て不足の処理方法に悩んでいた。そして、これらはすべて貸借対照表には記載されない簿外債務だった。
住友商事に至ってはロンドン金属取引所を舞台にした銅先物の簿外取引で2600億円もの損失を出し、経営の土台を揺るがしていた時期である。これらは旧態依然とした日本の金融や会計監査のシステムが引き起こしたものである。
決算発表の記者会見に備えて、貿易記者会が共通質問を募っていた時のことだ。筆者は総合商社が抱える基準上は簿外となっている不良債権の減損や引き当ての処理の可能性について質問をしたかった。だが、記者クラブの幹事からは「そういう細かいことは個別に取材してください。商社とヤクザとのからみが社会的な大問題なのですから」と却下されてしまった。
会見で「営業利益って何ですか?」と尋ねたテレビ局記者
ある非常駐のテレビ局の記者 は、銅先物取引事件を起こした直後の記者会見で、住友商事の財務担当役員に向かって「営業利益ってなんですか」と常識以前の質問をするありさまだった。会見場が凍り付いた。このひと言で銅先物取引事件は吹っ飛んでしまった。また、他の記者は毎回決まって「有利子負債額は」「想定為替レートは」「来期のケイツネ(経常利益)は」と質問していた。
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