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辞退しない聖火ランナーたち

福島からのスタートを待つカナダ人の思い

増島みどり スポーツライター

 福島市にある福島大学キャンパスまで、最寄りのJR金谷川駅から急な坂道を上って行く。スーツ姿で改札まで迎えに来たマクマイケル・ウィリアム氏(38=福島大国際交流センター副センター長)に恐縮していると、「昨年は聖火リレーに向けて、身体を何とか仕上げたんですが、今年はコロナ自粛でちょっと太って準備不足でして・・・いい練習になります」と、お腹の辺りをさすって笑った。

東日本大震災を経験 福島の皆さんに恩返しを

福島大キャンパスのマクマイケルさん

 3月25日、福島県楢葉町のJヴィレッジから7月23日の東京オリンピック開会式を目指して聖火リレーが始まる(パラリンピック開会式は8月24日)。福島で聖火ランナーを務めるカナダ人は・・・と、あえて「カナダ」と国名を言うのも違和感を抱くほど、流暢な日本語と正しい敬語を使う。2007年、縁もゆかりもなかった見知らぬ土地・福島に、外務省と自治体による国際交流企画「ジェットプログラム」で来日。福島と人々を心から愛し、東日本大震災の困難を共に経験し、復興に歩む福島の姿を世界に知ってもらおうと、これまで800人以上の学生を受け入れる活動を続けて来た。

 東日本大震災から10年を迎え、海外メディアからの取材依頼が殺到していたという。「フクシマ」に対する偏見を交えた質問や、事前の約束を守らない取材に、「礼儀がないのはどうでしょうねぇ。少しカチンと来ます」とユーモアたっぷりにこぼしながら、「これ、福島銘菓です、召し上がって下さい」と、コーヒーと優しい味の和風スイーツが研究室のテーブルに運ばれてきた。さすがは「あったかふくしま観光交流大使」である。

 聖火ランナーの志望動機には、このような話が記されている。

 「福島は、数え切れないほどの美しさと人々の優しさ、そして内に秘めた力強さを持つ、世界に誇れる地域です。震災を機に、そんな福島に対する誤解が海外で瞬く間に広まってしまいましたが、同時に、根気強く発信や現地で応援を続けてくれる福島の大ファンの仲間もたくさん生まれました。聖火ランナーとして、地域の皆様と一緒に福島の魅力を伝えることができたら本望です」

 リレースタートから3日目、27日に南会津を走る。研究室には、妻・亜希子さんと、12歳と9歳の息子たち、2007年から県内全域で続けてきた交流で撮影した数々の写真が飾ってある。

地元バンクーバー五輪の感動、魅了された福島と東日本大震災

――バンクーバー出身ですね。2010年の冬季五輪は?

マクマイケル はい、閉会式と大人気のホッケー、それからモーグル競技も現地で観戦できました。ご存知のようにカナダで大人気のスポーツはアイスホッケーで、どの国の観光客といった分け隔てなく、上手い人も初めての人も、言葉も違うみんなで路上ホッケーをして本当に楽しかった。ピンバッジの交換もオリンピックでは話題ですね。息子が、日本のメディアにピカチュウのバッジを頂いて、これがレアなんで新聞にまで載って。普段なら会う機会のない人々が、あの時期だけ一つになれる。とても感動しました。オリンピックに出る選手にはなれませんけれど、聖火リレーを走れるのは、それと同じくらい名誉だと感じています。

――福島との縁は?

マクマイケル 外務省と各自治体が行うジェットプログラムでは、1年をかけて選考が行われます。ただ、どこに派遣されるか分からず、07年8月に福島に、と言われた際は、どこなのかさえ

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