政権への「忖度」はあったのか。“強権的”との会長批判も
2021年03月19日
東京五輪・パラリンピックの開催を討論するNHKスペシャル「令和未来会議」が1月、収録2日前に急きょ取りやめとなり、延期となった。菅義偉首相が出演したニュース番組で学術会議問題を問うたキャスターらが4月に交代することになった。「波」の数の削減に続き管理職3割減に踏み込んだ前田晃伸会長の思い切った経営・人事戦略について「強権的」と指摘する声が出ている。いま、NHKに何が起きているか。
1月24日放送の予定だった「令和未来会議 どうする? 東京オリンピック・パラリンピック」は、17日に決まっていた収録が、2日前の15日に見送りとなった。代わりに、「わたしたちの“目”が危ない 超近視時代のサバイバル」が急きょ放送された。
NHK労組の日本放送労働組合(日放労)とNHKは1月29日、労使間で議論を交わした。
NHK関係者によると、「令和未来会議」のこの番組は昨年12月8日の提案会議が採択されていた。経営側は、1月7日に首都圏に出された緊急事態宣言が13日には11都府県に拡大され深刻さが増す中で、大規模スポーツイベントをどう開催するかという番組を放送するのは、「冷静で建設的な議論の機会を提供する」ことにつながらないと判断した、と延期理由を説明した。
緊急事態宣言が解除され、視聴者にどう受け止められるかを見極め、改めて適切な放送時期を検討する意向を示した、という。
議論で労組側は、収録見送りまで放送日が適切かという議論がなかったうえ、15日に現場へ判断が伝えられる直前、担当の大型企画開発センター幹部が正籬(まさがき)聡・副会長兼放送総局長に会ったことが不信感を招いている、とただした。
これに対し、経営側のNスペを担当する管理職からは「全体状況を考えずに放送はできないと収録前ギリギリで判断した」と述べた。現場に伝えることが遅くなったことは陳謝したが、放送総局長から「放送日をもう一回検討してはどうか」という話があったものの指示ではなく、自分の判断で先送りを決めた、という認識を示したという。
NHK役員は「具体的な経過について話すことはできない」と言っている。
結果的に、この「令和未来会議」は3月21日夜9時からのNHKスペシャルで「どう考える?東京オリンピック・パラリンピック」をテーマに、五輪メダリストや大会関係者らによる討論番組として放送されることになった。
直後の2月10日に発表された新年度のNHKキャスターの顔ぶれで、目を引いたのが「ニュースウオッチ9」の有馬嘉男氏と「クローズアップ現代+」の武田真一氏の降板だった。
記者出身の有馬氏は、「ブラタモリ」で表情豊かな進行ぶりで人気を得た桑子真帆アナウンサーとともに「ニュースチェック11」に1年間出演したあと、2017年に「ニュースウオッチ9」に同じコンビで移動。桑子アナを自由に振る舞わせて引き立たせる役どころだった。20年から和久田麻由子アナと組むようになってから、有馬氏が前面に出るようになった印象がある。
昨年10月26日には菅義偉首相が出演。日本学術会議から推進された会員候補6人の任命を見送った問題について、和久田キャスターが「総合的、俯瞰的と繰り返し話されていますが、わかりにくいという声が与党内から上がっています。国民に理解を得ていこうとする考えは」と質問。さらに有馬キャスターは「前例にとらわれない現状改革をしていくときに、説明を求める国民の声があるように思うのですが」と重ねて聞いた。
これに対し、菅首相は「説明できることとできないことがある。105人を推薦できる学術会議を追認しろと政府は言われている」と反論した。
「週刊現代」はこのやり取りの翌日、山田真貴子内閣広報官が原聖樹NHK政治部長に「総理、怒っていますよ」「あんなに突っ込むなんて、事前の打ち合わせと違う。どうかと思います」と電話で抗議した、と報じた(11月14・21日号)。
菅首相出演から3日後の10月29日には、学術会議問題を取り上げた「クローズアップ現代+」で政府の対応に理解を示す百地章・国士舘大特任教授のインタビューが急きょ追加された、といわれている。この背景について、元NHKチーフプロデューサーの長井暁氏は月刊誌「世界」3月号に、「放送当日の朝、根本拓也報道局長からの指示が突然現場に伝えられ」た、と記した。
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