川本裕司(かわもと・ひろし) 朝日新聞記者
朝日新聞記者。1959年生まれ。81年入社。学芸部、社会部などを経て、2006年から放送、通信、新聞などメディアを担当する編集委員などを歴任。著書に『変容するNHK』『テレビが映し出した平成という時代』『ニューメディア「誤算」の構造』。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
政権への「忖度」はあったのか。“強権的”との会長批判も
東京五輪・パラリンピックの開催を討論するNHKスペシャル「令和未来会議」が1月、収録2日前に急きょ取りやめとなり、延期となった。菅義偉首相が出演したニュース番組で学術会議問題を問うたキャスターらが4月に交代することになった。「波」の数の削減に続き管理職3割減に踏み込んだ前田晃伸会長の思い切った経営・人事戦略について「強権的」と指摘する声が出ている。いま、NHKに何が起きているか。
1月24日放送の予定だった「令和未来会議 どうする? 東京オリンピック・パラリンピック」は、17日に決まっていた収録が、2日前の15日に見送りとなった。代わりに、「わたしたちの“目”が危ない 超近視時代のサバイバル」が急きょ放送された。
当時は新型コロナウイルス感染による2度目の緊急事態宣言が発令された直後。報道各社の世論調査では、東京五輪について「再延期」「中止」が「開催」を大きく上回っていた。
NHK労組の日本放送労働組合(日放労)とNHKは1月29日、労使間で議論を交わした。
NHK関係者によると、「令和未来会議」のこの番組は昨年12月8日の提案会議が採択されていた。経営側は、1月7日に首都圏に出された緊急事態宣言が13日には11都府県に拡大され深刻さが増す中で、大規模スポーツイベントをどう開催するかという番組を放送するのは、「冷静で建設的な議論の機会を提供する」ことにつながらないと判断した、と延期理由を説明した。
緊急事態宣言が解除され、視聴者にどう受け止められるかを見極め、改めて適切な放送時期を検討する意向を示した、という。
議論で労組側は、収録見送りまで放送日が適切かという議論がなかったうえ、15日に現場へ判断が伝えられる直前、担当の大型企画開発センター幹部が正籬(まさがき)聡・副会長兼放送総局長に会ったことが不信感を招いている、とただした。
これに対し、経営側のNスペを担当する管理職からは「全体状況を考えずに放送はできないと収録前ギリギリで判断した」と述べた。現場に伝えることが遅くなったことは陳謝したが、放送総局長から「放送日をもう一回検討してはどうか」という話があったものの指示ではなく、自分の判断で先送りを決めた、という認識を示したという。
NHK役員は「具体的な経過について話すことはできない」と言っている。
結果的に、この「令和未来会議」は3月21日夜9時からのNHKスペシャルで「どう考える?東京オリンピック・パラリンピック」をテーマに、五輪メダリストや大会関係者らによる討論番組として放送されることになった。
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