川本裕司(かわもと・ひろし) 朝日新聞記者
朝日新聞記者。1959年生まれ。81年入社。学芸部、社会部などを経て、2006年から放送、通信、新聞などメディアを担当する編集委員などを歴任。著書に『変容するNHK』『テレビが映し出した平成という時代』『ニューメディア「誤算」の構造』。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
政権への「忖度」はあったのか。“強権的”との会長批判も
直後の2月10日に発表された新年度のNHKキャスターの顔ぶれで、目を引いたのが「ニュースウオッチ9」の有馬嘉男氏と「クローズアップ現代+」の武田真一氏の降板だった。
記者出身の有馬氏は、「ブラタモリ」で表情豊かな進行ぶりで人気を得た桑子真帆アナウンサーとともに「ニュースチェック11」に1年間出演したあと、2017年に「ニュースウオッチ9」に同じコンビで移動。桑子アナを自由に振る舞わせて引き立たせる役どころだった。20年から和久田麻由子アナと組むようになってから、有馬氏が前面に出るようになった印象がある。
昨年10月26日には菅義偉首相が出演。日本学術会議から推進された会員候補6人の任命を見送った問題について、和久田キャスターが「総合的、俯瞰的と繰り返し話されていますが、わかりにくいという声が与党内から上がっています。国民に理解を得ていこうとする考えは」と質問。さらに有馬キャスターは「前例にとらわれない現状改革をしていくときに、説明を求める国民の声があるように思うのですが」と重ねて聞いた。
これに対し、菅首相は「説明できることとできないことがある。105人を推薦できる学術会議を追認しろと政府は言われている」と反論した。
「週刊現代」はこのやり取りの翌日、山田真貴子内閣広報官が原聖樹NHK政治部長に「総理、怒っていますよ」「あんなに突っ込むなんて、事前の打ち合わせと違う。どうかと思います」と電話で抗議した、と報じた(11月14・21日号)。
菅首相出演から3日後の10月29日には、学術会議問題を取り上げた「クローズアップ現代+」で政府の対応に理解を示す百地章・国士舘大特任教授のインタビューが急きょ追加された、といわれている。この背景について、元NHKチーフプロデューサーの長井暁氏は月刊誌「世界」3月号に、「放送当日の朝、根本拓也報道局長からの指示が突然現場に伝えられ」た、と記した。