監視国家化を狙う菅首相のメディア政策は総務省接待疑惑でも終わらない
菅首相の「天領」である総務省がからむ「大きな絵図」には用心が必要だ
徳山喜雄 ジャーナリスト、立正大学教授(ジャーナリズム論、写真論)
センシティブ情報を握り国民を縛る
東北新社がからむ衛星放送の許認可権やNTTがからむ携帯電話の電波の利用権限は、すべて権力、言い換えれば菅首相の権力によるもので、煎じ詰めれば国民を縛るメディア政策にたどり着く。これについて説明したい。
菅首相の看板政策の「デジタル庁」創設などを柱とする「デジタル改革関連法案」の国会審議がはじまった。しかし、マイナンバーの所管を、総務省や内閣府からデジタル庁の一元的な体制に移行することから、個人情報保護の観点やデジタル機器に不慣れな弱者支援をめぐり、疑問の声が上がっている。
たとえば、税金や病歴、前科前歴などさまざまな分野の情報を横に繋いで一元化し、「国民支配」に利用する危険性がある。衆院内閣委員会で野党議員が「一番心配なのは、監視国家に向かっていくことだ」と指摘すると、平井卓也デジタル改革相は「監視社会型のデジタル化の最たるものは中国だ」「非常に効率的」と認めたうえで、「監視社会は全然想定していない、日本として守っていきたい一線だ」と述べ、担当相自身がその危うさを認識している様子をうかがわせた。
菅首相は詰めなければならない数々の問題を抱えるこの法案を、4月上旬にスピード成立させたい意向だ。菅政権発足当初からのメディア政策の根幹をなすもので、是が非でもあげたいのだろう。ここで注目したいのは、63本もの新法や改正案を束ねたこの法案について、コロナ禍や高額接待問題に追われる野党が十分な検討をせず、報道もほとんどされていないことだ。
欧米と違い、日本には情報を扱う機関への監視システムは整備されてない。デジタル(AI)という高度な技術によって、国民は自らのセンシティブな情報を国に握られ、支配される事態になりかねない。

自民党大会であいさつをする菅義偉首相=2021年3月21日、東京都港区
政治家、官僚、メディアの動向を徹底リサーチ
菅首相の政治的手法であろうが、政治家や官僚、新聞・放送記者らの動向を神経質なまでにリサーチし、先手を打って従わせようとする。これは国民に対しても同様であり、コロナ禍対応の改正特別措置法と感染症法によって国民に罰則を科した。これがコロナ対応の失策をまるで国民の責任にしたかのようで、不評を買ったのは記憶に生々しい。
こうした菅氏の強権的な体質は、権威主義国家化という世界的な潮流とも符号する。スウェーデンの国際調査機関「V-Dem」によると、2019年現在の世界の民主主義国家と権威主義的な国家数は、「87対92」で権威主義国家が上回る。民主主義国家が過半数を割ったのは2001年以来という。権威主義国家はアジアや中東などに多いが、世界全体の政治潮流が権威主義化しているのは確かで、欧州においても専制が進むオルバン政権のハンガリーがその一つに数えられる。
菅首相の政治手法も、官房長官時代から権威主義的と思えてならない。その点で、「デジタル庁」創設の背後にひそむ、監視国家化と国民支配の構図には留意しなければならないだろう。
放送政策にも目を向けると、安倍政権時代からつづく放送現場への介入は枚挙にいとまがない。最近では、NHK「ニュースウォッチ9」の有馬嘉男キャスターを降板させる不自然な人事があった。
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