メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

[51]横浜市の「水際作戦」を告発~生活保護の精神をないがしろにする自治体の現実

住まいをめぐり理不尽な行政対応が頻発。「当たり前の権利」と認識を

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

厚労省が保護原則を強調も、法に逆行する対応横行

拡大厚生労働省ホームページの生活保護紹介のページ。「住むところがない人でも申請できます」「施設に入ることに同意することが申請の条件ということはありません」と記している
 生活保護法には「居宅保護の原則」があり、施設の入所を強制することは禁じられている。

 しかし、実際には横浜市に限らず、住まいのない状態の生活困窮者が相談に訪れた際、施設に入所することを生活保護の前提であるかのように説明をしている自治体は少なくない。

 厚生労働省は公式サイトの生活保護紹介ページで、「住むところがない人でも申請できます。」「例えば、施設に入ることに同意することが申請の条件ということはありません。」とわざわざ説明をしているが、現場ではそれが守られていない実態がある。

 福祉事務所が紹介する宿泊施設の多くは、相部屋の環境になっているため、コロナの感染リスクやプライバシーを考慮して忌避する人は少なくない。職員もそのことを理解しているはずだが、施設入所以外の選択肢をあえて示さないことにより、生活保護申請をあきらめさせる、というソフトな水際作戦は各地で横行している。

 今回、神奈川区はAさんに対して、当面、ホテルやネットカフェでの宿泊を認め、早期にアパートに移るための初期費用を支給する、という対応を取ることもできたはずであった。しかし、対応した職員は面談の冒頭から「おうちのない状態だと、ホームレスの方の施設があって、そちらに入ってもらう。そちらは女性の方なので女性相談になる。」と、施設入所が前提であるとの説明をおこなっていた。

組織的な追い返しが恒常化か

 また、神奈川区の部長は、Aさんに直接、謝罪する際も「結果的に申請を受けなかった」という表現を使い、追い返しの意図はなかったと釈明したが、録音記録は今回の対応が組織的なものであった可能性を示している。

 Aさんの面談をおこなった職員は、途中、席を立ち、同僚に対応の相談に行っており、しばらく帰ってこなかった。戻った後の対応は、さらに悪化しており、「所持金額(約9万円)が基準を超えているので、申請しても却下になる」と嘘の説明を繰り返し、Aさんを申請断念に追い込んでいくプロセスが克明に記録されている。

 こうした経緯は、今回の水際作戦がこの職員個人の問題ではなく、所内で意図的な追い返しが日常的に行なわれていたことをうかがわせるものである。

 横浜市は現在、昨年12月から今年3月9日までの全ての区の生活保護窓口での面接相談記録を総点検し、不適切な事例が他にもあった場合、相談者に改めて連絡をするとしている。

 Aさんは自分のような被害に遭った人が他にもいるのではないか、ということを心配していた。彼女の勇気ある告発が、生活保護行政の改善につながることを願ってやまない。

 私が神奈川区の部長らの謝罪に既視感を感じたのは、他の自治体でも同様の謝罪シーンを何度も見たことを思い出したからである。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困パンデミック』(明石書店)、『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)、『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

稲葉剛の記事

もっと見る