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デジタル教科書への転換による学力低下リスク

読解における紙の優位性を示す科学的根拠に目を向けよ

大森不二雄 東北大学教授

デジタルよりも紙の方が読解に有益との科学的根拠

  デジタル媒体(パソコン、タブレット、スマートフォン等)と紙媒体の読解に関する比較(文章を読んだ後テスト等によって内容理解を測定)については、小学生、中学生、高校生、大学生等の各学校段階について世界各地で数多くの研究が行われてきている。多数の関連研究の結果を統合して分析するメタ分析による総合的な研究成果が、近年3つの論文として別個に公刊され、いずれも紙媒体で読んだ方がデジタル媒体で読んだ時よりも高い読解(内容理解)を示すとの知見を明らかにしている。

 まず、これら3つのメタ分析の中でも特に大規模なもの(Delgado, Vargas, Ackerman & Salmerón 2018)について、研究成果を紹介する。

 分析対象となった諸研究は、2000年から2017年に結果が公表された54の研究で、これらの研究が調査対象とした学生・生徒等の合計人数(サンプル数)は、約17万人に上る。その内訳は、大学生が6割強、4割弱が小学生・中高生である。その結果、デジタル画面上で読んだ場合の文章理解が紙に書かれた文章を読んだ場合に比べて劣ることは明白となった。両媒体間の読解の差は、なんと小学生1学年分の3分の2にも達する差であったという。

タブレット端末に入ったデジタル教科書。画像の拡大や音声読み上げの機能があるものも拡大タブレット端末に入ったデジタル教科書。画像の拡大や音声読み上げの機能があるものも

 この分析のサンプルにおいて小学生・中高生よりも大学生の割合が大きいことが気になるかもしれないが、紙とデジタルの読解の差について年齢層による違いは見られなかったとされている。また、社会のデジタル化の進展に伴い、デジタル・ネイティブなどと呼ばれる新しい世代ほど紙とデジタルの差が小さくなる、もしくは逆転するのではないかと思われるかもしれないが、事実は逆で、分析対象となった18年間(2000年~2017年)にその差(紙の優位、デジタルの劣位)は拡大したという。

説明文の読解では紙の優位は更に拡大する

 もう一つのメタ分析(Kong, Seo & Zhai 2018)は、読解に加えて読むスピードを比較している。結論から述べると、上述の分析と同様、読解についてデジタル媒体に対する紙媒体の明白な優位が確認された。他方、スピードについては有意差が見られなかったという。

 分析対象となったのは、2003年から2016年の間に論文として公表された17の研究で、国別の内訳が明らかにされており、米国の6研究が最多で、イスラエルとノルウェーが各2研究、スウェーデン、スカンジナビア諸国、ドイツ、英国、フランス、スイス、韓国が、各1研究ずつとなっている。やはり高等教育レベルの学生を対象とする研究が11と多いが、初等中等教育レベルの児童生徒を対象とする4研究も含まれている(その他2研究)。読解比較のサンプル数は計4,800超、スピード比較のサンプル数は約1,400であった。

 上述の2つの分析よりも新しく、デジタル媒体と紙媒体の比較としておそらく最新のメタ分析(Clinton 2019)は、2008年~2018年の間に公表された33の研究(対象は小学生・中高生・大学生・成人と多様)を分析対象としているが、読解(サンプル数:約2,800)についてやはり紙媒体の明白な優位性を見い出している。

 そして、説明文の読解に限るとその差は更に拡大する(物語の読解については有意差が見られない)という。また、自らの読解成績に関する予測(メタ認知)は、紙媒体の方が正確で、デジタル媒体だと自信過剰の傾向が見られたとしている。なお、読むスピード(時間)については、上述の分析と同様、両媒体間で有意差がないことが確認されている。これらの結果から、デジタル画面から読むよりも、紙から読む方が、読解の成果に関して効率的と考えられる旨、結論付けている。

 以上のメタ分析とは異なり、単一の実証研究として、ノルウェーの10歳児1,100人超という大規模なサンプルを対象とした調査研究の結果(Støle, Mangen & Schwippert 2020)においても、読解テストの成績はデジタルが紙を下回った。あらゆる学力レベルの児童についてそうなったが、特に女子児童の高得点層において紙とデジタルの差が顕著であったという。

 また、米国のミドルスクール3校の第5学年から第8学年(日本の小学校5年生から中学校2年生に相当)の生徒計371人を対象とした研究の結果(Goodwin, Cho, Reynolds, Brady, & Salas 2020)においては、500語(概ね1頁程度)を超える長文の場合、読解におけるデジタルに対する紙の優位性が確認された。児童生徒は、学年が上がるにつれ、より長い文章を読まなければならなくなることから、重要な知見である。

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筆者

大森不二雄

大森不二雄(おおもりふじお) 東北大学教授

京都大学文学部卒業、Ph.D.(ロンドン大学教育研究所)。専門は教育政策・教育社会学。1983年文部省入省後、在英大使館、岐阜県教育委員会、在米大使館を含め、行政に従事し、文部科学省にてWTO貿易交渉等を担当した後、2003年から熊本大学教授、首都大学東京教授を経て、2016年より東北大学教授。著書に、『「ゆとり教育」亡国論』(2000年、PHP研究所、単著)、『IT時代の教育プロ養成戦略』(2008年、東信堂、編著)、『拡大する社会格差に挑む教育』(2010年、東信堂、共編著)、『大学経営・政策入門』(2018年、東信堂、分担執筆)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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