「風評被害」という言説で被害が隠されることを危惧する
2021年04月13日
東京電力福島第一原発で発生した放射性物質トリチウムを含む水(以下、トリチウム水と記す)について、政府は海洋投棄を行う方針を決めた。
トリチウム水海洋投棄の報道をめぐっては、各新聞社で表記が全く異なっていた。まずはそれぞれの表記を紹介したい。
読売新聞は「処理水」(4月7日朝刊1面)、産経新聞は処理水(4月10日朝刊1面)、朝日新聞は処理済み汚染水(4月8日朝刊1面)、毎日新聞は汚染処理水(4月8日朝刊1面)と表現している。東京新聞は「汚染水を浄化処理した後の放射性物質トリチウムを含む水」と記しながらも、見出しには〈処理水〉とうたわれていた(4月10日朝刊1面)。
また、産経新聞報道(注1)によると、NHKの海外放送は9日、「radioactive water」(放射能で汚染された水)と報じた。しかし、その後「釈明」に追い込まれた。NHKの国際放送のホームページには以下のような「釈明文」が掲載されている。
タイトルなどで水が処理されずそのまま放出されるような誤解を与えかねない表現があるとの指摘を受けました。今後は海洋に放出する水については処理されることを明確にするため「treated water」とします。
しかし、筆者に言わせれば、トリチウム水を「処理水」「汚染処理水」などと表現することは全く誤った印象を与えるように思う。なぜなら、これは「風評被害」ではなく実害をもたらす汚染水であるからである。
そもそも汚染水に関して、どのような処理が行われているのだろうか。
処理には多核種除去設備(ALPS)という処理施設が用いられている。東京電力のホームページ(注2)によると、「セシウムを含む62種の放射性物質(トリチウムを除く)の除去が可能となっている」とある。実際、「除染効果が見込まれる核種」にはセシウムやストロンチウムは記されているが、トリチウムは該当していない。
つまり、現在用いられている処理施設において、トリチウムは処理されないのである。なぜなら、トリチウムは水分子の一部となって存在しており、水中にイオンの形で溶けているセシウムやストロンチウムといった他の放射性物質と違って、トリチウムが含まれる水分子のみを分離、除去することは現在の技術ではほぼ不可能とされているからだそうである。
ゆえに多くのメディアによって「処理水」などと記されているトリチウム水の実態は、セシウムやストロンチウムこそ「処理」されると説明されているが、仮にそうした物質を除去できるとしても、トリチウムは残存する。れっきとした汚染水なのである。
こうした報道のしかたに対して、自民党会派に所属する細野豪志氏は、毎日新聞のオンライン記事を引用しながら、Twitter上で「処理水の海洋放出を首相が決断するなら支持したい。『汚染処理水』という表現そのものが風評
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