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同姓、別姓、複合姓 選択肢があり、納得して選ぶ ドイツ

【6】本気で男女同権を推進するのなら、法的制度を整えることが出発点

田口理穂 ジャーナリスト

 選択的夫婦別姓の導入に賛成する意見は、様々な世論調査ではすでに多数派になっているが、にもかかわらず法改正は実現せず、国会における議論さえなかなか進まない。日本では長らく「夫婦が同じ姓なのは当たり前」とみなされてきたかもしれないが「『法律で夫婦の姓を同姓とするように義務付けている国』は、我が国のほかには承知していない」ことは政府も認めている(2015年10月6日付参議院での政府答弁書)。それでは諸外国では結婚後の姓はどんな制度によって定められ、人々はどのような選択をしているのだろうか。ヨーロッパを中心に、各国在住のライターがリレー形式で連載する。[第6回/全6回]

 「結婚して、一生幸せに暮らしましたとさ」。童話の締めくくりはいつも同じである。お姫様が待っていると、白馬の王子様が迎えにきて、求められて結婚する。ひとりの人と一生を共にする、彼の色に染まる、彼に守ってもらう・・・。「結婚したら好きな人の名字になるのが幸せ」というロマンチックな刷り込みは、ドイツでも根強く残っているようだ。さまざまな選択肢があるにもかかわらず、結婚の際、夫の姓を選ぶ女性は4分の3にのぼる。夫婦の姓について、ドイツの現状を紹介する。

夫の姓、複合姓、妻の姓、そしてやっと別姓が可能に

拡大恋人探しのサイトの広告=ドイツ・ハノーファー、筆者撮影

 ドイツ語圏では12世紀ごろから姓を持つことが徐々に広まり、1875年に住民課の導入で名前を書面で記録するようになった。大方の姓は職業(漁師、パン屋など)、父親または母親の下の名前、その人自身の特徴(小さい、長い、赤毛など)、出身地(州や地域の名称)、または居住地の特徴(山のそば、谷、石など)を元にしている。

 ドイツでは1900年発効となった民法典により夫婦は共通の姓を持つことが定められた。すなわち夫の姓が「家族の姓」とされ、妻は夫の姓を名乗らなければならなかった。1957年に妻は「家族の姓」と自分の姓と相手の姓による複合姓が許されるようになり、1976/1977年の婚姻権改革によって妻の姓を「家族の姓」とすることが認められた。

 しかし、その後も「家族の姓」を夫婦で合意できない場合、夫の姓が 「家族の姓」になると規定された。1991年になって「自動的に男性の姓を家族の姓とするのは、男女平等を記した基本法第3条に反する」として連邦憲法裁判所が違憲とした。こうして夫婦別姓への道が開かれ、1993年の法改正で正式に決定した。現在は同姓、複合姓、別姓の3種の選択肢がある。

国は「同姓にしてほしいけど、複合姓も別姓も認めよう」というスタンス

 しかし、結婚の姓について定めた民法典第1355条第1項を見ると「夫婦は共通の家族姓(婚姻姓)を名乗るべきである。夫婦は自分たちで決めた婚姻姓を名乗る」と記されている。そして第4項は「自分の姓が婚姻姓とならない配偶者は、戸籍課に申告することで出生姓、または(中略)自分の姓を婚姻姓の前や後ろに付けることができる」である。基本的には同姓を勧めるが、複合姓も別姓も認めようという姿勢である。

 別姓が可能となった当初は、妻か夫かどちらかの姓を「家族の姓」と決めなければならず、子どもが生まれたらその姓を名乗ることが定められていた。しかし現在は家族の姓を決める必要はなく、子どもが生まれた時点でどちらかの姓を与える。子どもに複合姓を付けることはできない。

 一度決めた姓は変更できず、子どもの姓もよほど深刻な理由がない限り変えられない(離婚した妻が旧姓に戻すさい、同居する子どもを旧姓にしたくてもできない)。複合姓が長くなっても、職場や役所ではきちんと正式名称を呼ぶ。日本のような旧姓の通称使用はなく、他国にあるような別姓でありながら夫の姓を通称的に使用するのもまず聞かない。法律重視で決められたことはきちんと守るドイツ人らしいところである。

 また結婚で相手の姓にした場合、離婚したり死別したりしても、家族の姓は変更されない。旧姓に戻したければ、役場で手続きをしなければならない。一方日本では離婚すると自動的に旧姓に戻される。婚姻姓を保持したければ、手続きをしなければならない。つまりドイツと日本は対応が正反対であり、両国の結婚に対する考え方を端的に反映していると感じる。

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筆者

田口理穂

田口理穂(たぐち・りほ) ジャーナリスト

日本で新聞記者を経て、1996年よりドイツ在住。ハノーファー大学社会学部卒。ドイツの環境やエネルギー、教育、社会事情など幅広く執筆。 ドイツ法廷通訳も務める。著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか』(学芸出版社)、『市民がつくった電力会社 ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)『「お手本の国」のウソ』(新潮新書)など。