「子ども目線」にたたない政策で、苦しむ子をなくすために
2021年05月02日
自ら命を絶つ子どもが増えている。警察庁の調べによると、昨年の小・中・高生の自殺者数は前年比25.1%増の499人で過去最悪を記録した。
自殺者数だけではない。筆者が理事長を務める、NPO法人あなたのいばしょが運営する無料のチャット相談窓口に寄せられる相談は、増加の一途をたどる。
多くの相談はこうした悲痛な言葉で始まる。昨年3月に窓口を開設して以来、1年間で4万8000件以上の相談が寄せられた。その約8割は29歳以下の子ども・若者からの相談で、小学校低学年の子どもたちからの相談も毎日寄せられている。
昨年は1日150件ほどであった相談が、2回目の緊急事態宣言が出された今年1月以降は1日200件ほどに増加し、感染が再拡大している現在では、1日500件以上の相談が寄せられる日が続いている。
コロナ禍以前から、全ての相談に応答することができないほど逼迫していた相談窓口は、さらに危機的状況に陥っている。社会の最後の砦として機能している相談窓口は、多くのボランティアによって成り立っているが、急増している相談を前に、この最後の砦をなんとか死守しようと、ボランティアは睡眠時間を削り、日夜相談に応じている。
しかし、これは美談でもなんでもない。
コロナ禍以前から子どもや若者の自殺の問題は悪化の一途をたどっていたにも関わらず、有効な対策が講じられてこなかった。いまそのしわ寄せがおきているのだ。
子どもの自殺を取り巻く現状は、異様と言える。
昨年の全年代の年間自殺者数は11年ぶりに増加に転じたが、それまでは2003年の3万4427人をピークに減少していた。実際、統計開始以来過去最少となった2019年の自殺者数は2万169人と、16年間で1万5000人近く減ったのだ。
しかしこの間、子どもの自殺だけは減らなかった。全体の自殺者数がピークとなった2003年の小・中・高生の自殺者数は318人であるが、2019年は399人と増加している。そして昨年は499人と、1年間で100人も増加した。当然、子どもの人口が減少し続けているなかでの数字であり、まさに異常事態である。
ではなぜ、子どもの自殺だけが減らないのか。それは「子どもの目線」に立った政策や支援が展開されていないからだ。
例えば、子どもの自殺を防ぐための相談窓口はいまだに電話相談が中心であるが、現代の子どもたちは電話を使用しない。総務省情報通信政策研究所が昨年9月に発表した「令和元年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によると、13歳〜19歳の1日の平均利用時間として携帯電話3.3分、固定電話0.4分であるのに対し、SNSは64.1分だった。このように、友人との会話などの日常生活においても電話ではなくSNSを使用する現代の子どもたちが、深刻な悩みを電話で、しかも見知らぬ相手に打ち明けられるだろうか。
こうした現状をふまえて、国としてもSNS相談を支援する動きはあるが、いまだに「子ども目線」に立っているとは言い難い。
今月、内閣官房孤独・孤立対策室が、子どもを主な対象とした検索連動窓口案内の強化を実施した。これは、Yahoo!において「学校 行きたくない」などのキーワードを検索すると、文部科学省が設置した相談窓口の案内ページが表示されるというものだ。
一見すると素晴らしい取り組みだが、実際に検索をしてみて、目を疑った。
加えて、相談窓口の案内ページが表示されるキーワードとして、先述した「学校 行きたくない」のほかにも「新学期 ゆううつ」など10程度のキーワードが選ばれているが、この選定基準が極めて不透明である。果たして子どもたちが「ゆううつ」などの言葉を使うだろうか。
筆者が運営している「あなたのいばしょチャット相談」に寄せられた10代からの相談のうち、1万件をランダムに抽出し分析したところ、相談内頻出単語の上位50語に「ゆううつ(※憂鬱、憂うつを含む)」は
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