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トリチウムと水の理科・社会 【上】

天然でも人工でも、生成したトリチウムには何の違いもない

児玉一八 核・エネルギー問題情報センター理事

 政府は4月13日、多核種除去設備(ALPS)処理水を約2年後に海洋放出する方針を決定した。この処理水には、浄化装置では除去できないトリチウム(水素3、三重水素)が含まれているが、これを含めた放射性核種を規制値(告示濃度比総和1以下)とし、運用目標まで希釈した後に放出するとしている。この問題に関する議論を進めていくためには、「理科」と「社会」の両面からトリチウムについて考える必要がある。(本シリーズは3回連載です)

トリチウムとは何か

拡大福島第一原発構内に並ぶ貯水タンク=2016年11月10日

 朝早く起きて飲む、コップ1杯の水は格別である。冷たく透き通ったこの水には、上空でできた天然起源トリチウムが含まれている。その数は、コップ1杯で5千万個ほどになる(*1)。ちなみに、涙1滴にも天然起源のトリチウムが1万4千個ほど含まれている(*2)

 トリチウムは、水素の同位体である。同位体は、同じ元素に属する原子で、中性子数が異なるために重さ(質量数)が異なるもののことである。同位体は「元素名 質量数」で表すので、トリチウムは「水素3」とも言う。水素は原子核に陽子1個を持つ元素で、中性子が0個だったら水素1(軽水素、1Hまたは単にHと書く)、中性子が1個だったら水素2(重水素、2HまたはD)、中性子が2個だったら水素3(三重水素、3HまたはT)である。

 自然界にある水素は、水素1・水素2・水素3が混ざった状態で存在する。どのくらいの割合で混ざっているかを示すのが存在比で、水素1は99.9855 %、水素2は0.0145 %である。この2つの同位体は地球上のどこでもほぼ一定の値になっているが、トリチウム(水素3)は半減期が12.32年と相対的に短いため、場所によって存在比が大きく異なり、通常は同位体存在比で表すことはしない。あえて表すなら、計算上は0.000 000 000 000 000 N%(N=0~10)である。なお、トリチウムは大部分が水分子(HTO)として存在している。

(*1)大気圏内核実験が始まる前に、陸水に含まれる天然起源トリチウム濃度は1m3当たり200~900ベクレル(200~900Bq/m3)であった(出典:『国連科学委員会(UNSCEAR)1982年度報告書』付属書B)。水に含まれるトリチウム濃度を500Bq/m3、コップ1杯を180mLとして、トリチウムの半減期12.32年を用いて計算した。
(*2)電子天秤で水10滴を測ったところ、1滴は0.045mLに相当した。この結果から涙1滴を0.05mLとして計算した。

とても大きな(小さな)数がひんぱんに出てきますが、「ケタ」が分かれば大丈夫です


 放射線や放射能の話をする際には、「7.2×1016Bq」(地球上でのトリチウムの1年の生成量)や「1.3×1018Bq」(トリチウムの全地球平衡存在量)といったとても大きな数字や、「1.8×10-8mSv/Bq」(トリチウム水の実効線量係数)といったとても小さな数がひんぱんに出てきます。こんな数字は日常の暮らしでは出てきませんから、とまどう方もいらっしゃると思います。ところが、ちょっとしたコツを覚えてしまえば、あわてる必要はありません。そのコツは、「10の何乗」という表記になれること、そして「ケタが分かれば大丈夫」ということです。

 まず、「10の何乗」という表記についてです。例えば、1万は「104(10の4乗)」、1億は「108(10の8乗)」、1兆は「1012(10の12乗)」と書き、10の右肩に載っている数を「指数」といいます。1万は「10×10×10×10」と10を「4回」かけた数なので、「104」と書くわけです。

 一方、0.0001(1万分の1)は「10-4(10のマイナス4乗)」、0.00000001(1億分の1)は「10-8(10のマイナス8乗)」と書きます。0.0001は0.1(10-1)を4回かけた数なので、「10-4」というわけです。

 「10の何乗」という表記をすると、計算がとても楽になります。例えば、1万と1億をかけた場合、「10000×100000000」と0がいくつあるか数えるのが大変ですが、「104×108」だったら指数を足してやればいいので、「4+8=12」から「1012」と簡単に答えが出てきます。1兆(1012)と10万分の1(10-5)をかける時も、「1012×10-5=107」と簡単です。

 例えば、「7億8300万」はどう書けばいいかというと、「7.83×108」です。先ほど、「7.2×1016Bq」という数字が出てきましたが、これは「72000000000000000」(7京2000兆)のことです。「72000000000000000」あるいは「7京2000兆」と書くより、わかりやすいと思いませんか。

 それからもう一つ。放射線や放射能の話では上のようなとても大きな数や、とても小さな数がひんぱんに出てきますが、「ケタがいくつなのか」を見ておいてください。例えば「1.3×1018Bq」だったら、10の「18乗」のところです。とりあえずはこれがわかれば、それで十分です。ケタの大きさをつかみながら、大きな数や小さな数に慣れていってください。

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筆者

児玉一八

児玉一八(こだま・かずや) 核・エネルギー問題情報センター理事

1960年福井県武生市生まれ。1978年武生高校理数科卒業。1980年金沢大学理学部化学科在学中に第1種放射線取扱主任者免状を取得。1984年金沢大学大学院理学研究科修士課程修了、1988年金沢大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士、理学修士。専攻は生物化学、分子生物学。現在、核・エネルギー問題情報センター理事、原発問題住民運動全国連絡センター代表委員。著書:単著は『活断層上の欠陥原子炉 志賀原発―はたして福島の事故は特別か』(東洋書店)、『身近にあふれる「放射線」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、共著は『放射線被曝の理科・社会―四年目の「福島の真実」』(かもがわ出版)、『しあわせになるための「福島差別」論』(同)、『福島第一原発事故10年の再検証』(あけび書房)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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