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文化は「必要」だから支援するのか? いまこそ芸術家のためのニューディール政策を

世界大恐慌下で実践されたアーティスト雇用

西郷南海子 教育学者

ライブハウスは「娯楽」ではなく「文化」

 ここまで書いて、飛び込んできたニュースがある。ドイツ・ベルリン市は、クラブやライブハウスを「娯楽施設」ではなくて「文化施設」として認めることを求める提言を採択したという(“Berlin declares clubs cultural institutions” 2021年5月6日)。音楽クラブは街のアイデンティティの一部であり、文化施設としての保護を受けられるようになるという。科学的根拠もなしに夜20時以降の営業を「自粛」させられてきた私たちにとっては、それこそ「文化レベル」の違いに驚かされる事例である。

 上記はベルリン市という自治体の場合だが、ドイツ連邦政府はコロナ禍の初期から、積極的なアーティスト支援を行ってきた。昨年3月の時点で国務相は、零細企業・自営業者向けに用意された資金のうち総額500億ユーロ(約6兆円)を、芸術・文化領域に適用することを表明している。日本の800億円の支援とは桁違いである。支援金の振り込みも迅速で、ドイツ在住の日本人アーティストが驚きと感謝の気持ちをtwitterに綴っているのをよく目にする。

新型コロナウイルス対策で催し物の中止が続き「文化の多様性が脅かされている」などとして、支援を訴えるデモをするイベント業界の関2020年10月28日、ベルリン、野島淳撮影 拡大新型コロナウイルス対策で催し物の中止が続き「文化の多様性が脅かされている」などとして、支援を訴えるデモをするイベント業界の関2020年10月28日、ベルリン、野島淳撮影

 文化・芸術を担当するグリュッタース国務省は「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ。特に今は」と述べ、人々の生活や生命が脅かされているコロナ禍だからこそ、文化・芸術が必要であるという考えを発信している。

大胆な財政出動と減税は、アーティスト保護と同発想

 ここでもう一つ興味深いのは、ドイツはこれらの大胆な政策を実施するにあたって、ドイツの代名詞でもあった「財政均衡主義」から脱却しているという点である。ユーロ圏の国々は、それぞれの国には通貨発行権がないため、独自の財政政策を行うのが難しいと考えられてきたが、「憲法で定められている借り入れ制限を一時停止、1560億ユーロの新規国債を発行」している(モーゲンスタン陽子, Newsweek, 2020年3月30日)。

 オーストリアも大胆なアーティスト支援策を実施している。自営業やパートといった働き方に応じた給付金が得られるだけでなく、ロックダウンのたびに1000ユーロ(約13万円)の「ロックダウン・ボーナス」が給付される(AUSTRIA, Federal Ministry for Arts, Culture, the Civil Service and Sport, Last update: March 4th 2021)。このようにロックダウンに対して給付が行われるというのは、考えてみれば当然のことである。通常の経済活動が禁止されて、収入が絶たれてしまうことの責任はそれぞれの事業主にはないのである。

 それに加え、

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筆者

西郷南海子

西郷南海子(さいごうみなこ) 教育学者

1987年生まれ。大阪国際大学短期大学部非常勤講師、滋賀短期大学非常勤講師、京都大学人文科学研究所研究員。神奈川県鎌倉市育ち、京都市在住。京都大学に通いながら3人の子どもを出産し、博士号(教育学)を取得。現在、地元の公立小学校のPTA会長3期目。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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