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渋谷ホームレス女性の死亡事件で浮かび上がる「試食販売」と業務委託の闇

労働問題は「派遣切り」「雇い止め」時代より深刻化。報道が問われている

水島宏明 ジャーナリスト、上智大学文学部新聞学科教授

「派遣」ではない「業務委託」としての働き方

 大林三佐子さんの「試食販売」は「業務委託」という働き方だ。法律上はその仕事を請け負うという建前だ。会社に雇用されて労働者として権利が保障されるわけではない。

 このため、立場は不安定だ。セールスプロモーション会社に登録し、仕事がある時には働けるが、ない時は働くことはできない。収入もなくなる。仕事があってもなくても一定の給料が保障される正社員(正規雇用)とは根本的に違う。

 2008年頃のリーマンショックがきっかけになった不況期に非正規雇用の代名詞のようになった派遣労働とも違う。「派遣」は労働者派遣法という法律で派遣労働者の権利を保護する規定も一応はあるが、それもない。

 メディアは「業務委託」という究極的に不安定な働き方だったことにもっと注目すべきではないか。「所持金8円」というところまで困窮に追い込まれていった背景には彼女の働き方が色濃く影を落としていると筆者は考える。

 働き方の多様化にともなって正規雇用で働いていた人たちもコロナ不況で仕事を失ってウーバーイーツの配達員になって糊口をしのぐケースなどが目立っている。ニュースを見る限り、派遣、パート、バイトなどで働いていた人たちも流入している。ウーバーイーツの配達員は法律上「個人事業主」として扱われるが、それゆえ自己責任とされがちで労働者としての権利が保障されているわけではない。仕事を請け負う形になる「業務委託」もそれに近い形態だ。

 正規の働き方から非正規の働き方へ。非正規の中で業務委託や個人事業主へと不安定さの度合いが増していく。収入も以前よりも少なくなるなど、安定しないものになっていく。

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問題が多い「試食販売」という働き方

 大林さんと同じセールスプロモーションの会社に登録し、大林さんと一緒にスーパーなどで試食販売員として働いていた人が見つかった。A子さん(仮名)。大林さんとの付き合いはおよそ10年。A子さんによると試食販売員の収入はだいたい1日7000円から7500円くらいだったという。

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筆者

水島宏明

水島宏明(みずしま・ひろあき) ジャーナリスト、上智大学文学部新聞学科教授

1957年生まれ。札幌テレビ、日本テレビでテレビ報道に携わり、ロンドン、ベルリン特派員、「NNNドキュメント」ディレクター、「ズームイン!」解説キャスター等の後、法政大学社会学部教授を経て16 年4 月から現職。主な番組に「ネットカフェ難民」など。主な著書に『内側から見たテレビ』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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