取り残されずに制度や支援へアクセスできるようになるためには
2021年05月24日
「女性専用」や「女性限定」と名打つと、必ずと言っていいほど「逆差別だ」と批判的な指摘がある。3月13日と14日、新型コロナウイルスが猛威を振るう中、都内新宿区の大久保公園において「女性による女性のための相談会」を実施すると宣伝したところ、やはりこうした声が寄せられた。
なぜ、女性だけに限定する必要があるのか――。
女性は常に誰かの世話をすることを求められ、期待されることが多い。子どもや親や、夫の生活あるいは健康を優先するため、自分のケアは自然と後回しにせざるを得ない。あるいは、自分が抱える問題を問題と認識しないことさえある。
身体に不調をきたしても医療機関へのアクセスが遅れ、病状が悪化したという例は後を絶たない。特に、コロナ禍で家族の生活習慣が一変し、同時に女性が多く働くと言われるサービス業や飲食業が営業自粛や事業閉鎖に追い込まれた状況下では、あえて女性が気兼ねせず、自分の悩みを相談できる環境を作る必要がある。
日頃からその必要性を痛感していた、市民団体、労働組合、日本労働弁護団などから女性有志60人が集まり、「女性による女性のための相談会」を企画した。筆者も日本新聞労働組合連合(新聞労連)の一員として実行委員会の設置を呼びかけ、相談会にも相談員として参加した。
それにはあらゆる配慮が求められた。
ボランティアも含め、相談員は全員女性にすること。労働、生活、法律に加えて、家族や家庭のこと、性暴力被害、妊娠や子育てに関する悩み、そして心と身体の健康について落ち着いて話ができるブースを設置した。子ども連れでも安心して時間がとれるよう、託児サービスも用意した。
2日間で寄せられた相談は122件。仕事に関する内容がもっとも多く、次に心と身体、住まい、ハラスメント、食事と続いた。大半の女性は何かしらの暴力被害の経験があり、精神的な不調を訴えた。
親からの虐待に始まり、学校でのいじめ、通学・通勤途中の痴漢、性暴力、職場でのセクシュアル・ハラスメントやパワーハラスメント、夫からのDVなど、女性は生きてゆく上であらゆる形の暴力に遭う。
国連の「世界の女性2020」調査では、女性の3人に1人が近しい人からの身体的あるいは性的暴力に遭うとされ、こうした暴力を「陰のパンデミック」と呼ぶ。また、メディア業界限定ではあるものの、2018年夏に実施された日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)のアンケートによれば、女性は平均して5種類のセクハラや性暴力に遭うことがわかっている(注)。
こうした女性への暴力被害は、膨大な社会的、経済的損失を生み、国によってそれはGDPの3.7%に上るとも言われている。(2019年、世界銀行)
女性の労働には、低賃金、不安定雇用が代名詞となっていたが、その上にハラスメントという悪条件3点セットが目立つようになった。「女性による女性のための相談会」に寄せられた相談事例にも反映している。
(注)「不必要な身体接触」が最も多く、「容姿や年齢、身体的特徴などについて聞かれた、からかわれた」「『結婚しないの?』『子供生まないの?』などの自己決定権に関わる質問をされた」などが続く
ある30代の⼥性は、最⻑で2年働けるはずだった仕事を、コロナ禍で業績悪化を理由に2020年4⽉、派遣契約1年⽬で雇い⽌めされた。その契約も3カ⽉単位で反復更新していたという。以来、超短期で、⽇払いの細切れ雇用が続いた 。
イベント企画やリモートワーク用OA機器の電話販売を不定期に続けていたが、安定した正社員の就職枠が見つかった時にトラブルなく転職できるようにと考えた。そのうち、こうした単発の仕事も底をつき、収入は激減。1カ月間、もやしばかりを食べるなどの努力はしたが、家賃を3カ月滞納した。
相談会のブースに座った彼女が開口一番に言ったのは、「高卒で学歴が高くないので安定した正社員や給料水準が高い仕事に就けない」ということだった。果たしてそうだろうか。彼女が高卒なのには
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