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処理水放出と「リスク・コミュニケーション」のちゃぶ台返し

もっとも重要なのは、信頼関係をいかに構築していくかだ

安東量子 作家・NPO法人福島ダイアログ理事⻑

感染症対策専門家との違いは何か

 話をわかりやすくするために、コロナウイルスでのリスク・コミュニケーションを例にあげてみよう。

 新型コロナウイルスについては、現在、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が中心となって、リスク情報について国民に説明するスタイルになっている。その評価については一様ではないとは思うものの、専門家からのリスク情報の説明という観点で見ると、放射能や原発事故関連に比べればはるかにうまくいっているように思える(政府による政策的対応についてはまた別問題とする)。

 少なくとも、原発事故当時にそうであったような、専門家といえば、嘘つきで政府と癒着している、と国民の大多数から憤りと敵視を持って遇されるような状況にはなっておらず、専門家の言葉に一応は耳を傾けようではないか、という感覚を持っている国民の割合は一定数保たれているのではないだろうか。

 原発事故と比べてうまくいっているように思える大きな理由の一つとしては、まず関係者による工夫が挙げられる(「リスクコミュニケーションで皆が望む社会をめざす」医学界新聞2021年4月19日) 。原発事故での失敗を発奮材料として、今回、力を尽くしていただいているのだとすると、事故で苦い思いを嚙み締めた人にとっても励みとなる。

 加えて、もう一つ、このパンデミックが、専門家の過失によって始まったのではないという条件も大きく寄与している。たとえば、これが仮に、専門家の過失によってウイルスが拡散したと想定したらどうだろうか。現在、専門家の見解に耳を傾けている人でも、態度を変える人は多いのではないだろうか。

 その上、専門家が自分の過失には一切触れず、まるで過失などなかったかのように「科学的な」リスクの説明だけに終始し、さらに、

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筆者

安東量子

安東量子(あんどう・りょうこ) 作家・NPO法人福島ダイアログ理事⻑

1976年広島県生まれ。福島県いわき市在住。自営業(植木屋)震災後、ボランティア団体「 福島のエートス 」を主宰。著書に『海を撃つ ――福島・広島・ベラルーシにて』(みすず書房)、共著書に『福島はあなた自身――災害と復興を見つめて』(福島民報社)。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです