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山谷議員の言う「ばかげたこと」を解消するためにこそ、LGBT理解増進法が必要だ

男女という区切りですべての人間を区分けできるという勘違い

赤木智弘 フリーライター

 5月20日、自民党部会でLGBT理解増進法案の審査が行われた。議員の中には「法が成立すれば裁判が乱立する」「道徳的にLGBTは認められない」「LGBTは種の保存に抗っている」などの異論があがったという(2021年5月21日付朝日新聞デジタル)。

 これらの発言もツッコミどころ満点だが、僕が気になったのは自民党の山谷えり子参議院議員による、

「体は男だけど自分は女だから女子トイレに入れろとか、アメリカなんかでは女子陸上競技に参加してしまってダーッとメダルを取るとか、ばかげたことはいろいろ起きている」

 という発言である(2021年5月20日付朝日新聞デジタル)。この「女子トイレ」や「女子陸上競技」の問題はLGBTを受容することに対して批判的な見方をする人たちがよく持ち出す話である。ここでは「女子スポーツ」の問題提起が妥当であるかを考えたい。

スポーツ界の問題ならルールで取り決めればよい

拡大重量挙げ世界選手権、女子87キロ超級に出場したニュージーランドのローレル・ハバード選手。ハバード選手は男性として育ち、30代でホルモン治療を受け、女性になったトランスジェンダー。東京五輪への出場も有力視されている=2019年9月27日、タイ・パタヤ

 まずアメリカでトランスジェンダーの選手が女子陸上競技に参加して、勝っているという問題があることは事実である。

 この問題に対応するために、現時点でいくつかの州がトランスジェンダーの選手が女子競技に参加することを禁止している。しかし問題がスポーツ界という狭い範囲に留まるのであれば、ルール上で取り決めをすればいいだけの話である。選手側からの十分な批判があれば、女子競技から性自認は女性だが、肉体は男性の選手を排除することは可能である。

 だが、そういうと普段は人権などまったく尊重するつもりもないのに、他者を批判するときにだけは人権を他人を殴るための棒として持ち出す人たちが、にやけ顔で「人権はどうなるんだい」などと言い出すだろう。しかし、そんな言葉は、反論として成り立っていない。なぜなら、現状でもスポーツ界は極めて非人道的なことを選手に課しているからだ。

 それは「アンチドーピングのために選手達に課す義務」である。

 ドーピングというと、なにか極めて特別な行為であり、選手に勝たせるためにマッドなドクターが何やらよく分からない薬を選手に注射して「ひっひっひ」なんて印象があるかもしれない。

 しかし実際のドーピングは、それこそ薬局薬店で販売されている普通の風邪薬1つ飲むのでも、チームドクターなどにドーピングにならないかを確認する必要があるくらいに、選手にとっては身近な問題である。

 また通常の食品などからもドーピングに引っかかる成分が検出されてしまうことがある。特にサプリメントは食品ではあるものの、自然由来の成分が中心のものであっても内容物の濃さから、元々自然に含まれる微量成分が検出されるレベルにまで増えてしまうことがある。

 知られた例だと、梅肉エキスを使用した製品から検出限界ギリギリの微量ではあったものの、ステロイドの一種が検出されてしまったことがある。それくらいに選手たちにとってドーピングはとても身近で管理の大変な問題なのである。

 ドーピング行為は世界中で取り締まりが行われているが、日本ではJADA(日本アンチドーピング機構)が担当している。JADA等が登録する「RTP/TPアスリート」は、検査対象者としてJADAに対して居場所などの提出をしなければならない。なおこのRTP/TPアスリートは世界的に活躍する日本トップクラスの選手が登録される。

 登録されると、自分が宿泊する場所はもちろん、トレーニング場所や出場予定の大会などを記載して、四半期に1回登録する必要がある。もちろん提出した後も予定が決まっていくにつれ、最新の情報に更新しつづけなければならない。

 中でも重要なのは「60分時間枠」と呼ばれるもので、選手が5時から23時までのいずれか60分を指定し、その時間には抜き打ちのドーピング検査に必ず対応できる体制を整えていなければならないのである。

 居場所などの登録をちゃんとしなかったり、60分時間枠に指定した時間に検査ができなければ違反となり、たとえ実際はドーピングをしていなかったとしても、出場停止などの厳しい処分が下される。

 いわば日本トップクラスの選手は常にJADAに居場所を管理監視されているのであり、ハッキリ言って人権侵害も良いところである。

 だが、アンチドーピングがいくら選手の人権を大幅に損なう内容であっても、そこには「競技の公平性」や「選手の健康を守る」という大義名分があるからこそ、選手たちもそれを尊重して受け入れ、自分たちの居場所を通知しているのである。

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筆者

赤木智弘

赤木智弘(あかぎ・ともひろ) フリーライター

1975年生まれ。著書に『若者を見殺しにする国』『「当たり前」をひっぱたく 過ちを見過ごさないために』、共著書に『下流中年』など。

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