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[53]雨宮処凛さんと語る「コロナ禍の生活苦と住まいの貧困」~野戦病院の現場から

底が抜け続ける社会で求められる政策とは

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

国会議員に支援拡充訴える集会で初対談

 5月19日、私が世話人を務める「住まいの貧困に取り組むネットワーク」(住まいの貧困ネット)など住宅問題に関わる複数の団体の主催で、「住まいの貧困をなくす―家賃補助の実現、公共住宅重視へ転換を!」という集会が衆議院第二議員会館で開催されました。国会議員に住宅支援の拡充を訴えるために企画されたこの集会には約60人が参加。立憲民主党や日本共産党の国会議員も参加し、発言を行いました。その集会の中で、「コロナ禍の生活苦と住まいの貧困―求められる政策は」をテーマに、作家で活動家の雨宮処凛さんと私の対談が行われました。今回はその対談の内容をお伝えします。

住まいの貧困をなくすための対策を国会議員に訴える集会で対談した雨宮処凛さんと筆者=2021年5月19日、東京・永田町の衆議院第二議員会館

稲葉 雨宮さんとは十数年間、反貧困の活動を一緒に続けてきて、この間も年末年始の相談会や「ゴールデンウィーク大人食堂」など、支援現場でもご一緒する機会が多いのですが、実は、対談をするのはこれが初めてです。4月には、コロナ禍での生活困窮者支援の活動についてまとめた『コロナ禍、貧困の記録―2020年、この国の底が抜けた』(かもがわ出版)という新著も出されています。

 まずは、このゴールデンウィークに四谷の聖イグナチオ教会の会場を借りて2日間、開催した「ゴールデンウィーク大人食堂」の話をしたいのですが、初日の5月3日は210人、2日目の5日にはその倍以上の448人もの方が支援を求めて集まられました。3日の様子がテレビで報道されたので、それを見て、来てみたという方も多かったのではないかと思いますが、2日間で延べ658人という想定以上の人数になってしまいましたね。

雨宮 初日に150食、2日目は350食のお弁当を用意していたので、「これで行けるだろう」と思っていたのが、足りなくなるという事態でしたね。

今年の「ゴールデンウィーク大人食堂」で提供された弁当などの食料=東京都千代田区、つくろい東京ファンド提供

「この下はもうないと思ったら……」支援求める人々が急増

稲葉 急遽、パンを買いに行って、対応するという状況でした。また、都内各地でホームレス支援団体が定期的に開催している食料支援の場でも、コロナ以前の2倍以上の人が集まるという状況になっています。

 池袋でNPO法人TENOHASIが実施している食料支援では、5月8日(土)に371人もの方が来られ、用意していた350食のお弁当がなくなって、保存食品で対応したという話も聞いています。雨宮さんはよく「社会の底が抜けている」と言われていますが、「底がどこまで抜けるのか」といった状況ですよね。

雨宮 リーマンショックの時から「底が抜けた」と言ってきましたが、ずっと抜けていると言うか、「この下はもう無いと思ったら、まだあった」と言ったような感じですよね。

稲葉 1年前から「自助も共助も限界だ」ということを私たちは言い続けてきましたが、肝心の「公助」が動かないままで、各民間支援団体の関係者の間でも「誰か、過労で倒れるんじゃないか」と言い合っている、という状況が続いてます。

仕事や住まいを失って困窮した人のために、約40団体が参加する新型コロナ災害緊急アクションが大みそかに開いた緊急相談会。助けを求めて多くの人々が集まった=2020年12月31日、東京都豊島区の東池袋中央公園

雨宮 去年の4月から「(生活困窮者支援の現場は)野戦病院になっている」と言ってきましたけど、「一年以上、野戦病院をやっている」という人は普通、いないですよね(苦笑)

稲葉 幸い、まだ周りに倒れた人はいないですが、いつ誰が倒れてもおかしくない状況ですよね。

 ゴールデンウィーク大人食堂での相談の様子を聞かせていただけますか。

女性のホームレス化が進む。失業だけが原因という衝撃

雨宮 大人食堂では女性の相談を担当していて、「女性相談」ブースにずっといたので、全体像をあまり見れていないのですが、1日目も2日目も食料をもらいに来る方で女性の方が多かったですよね。若い女性や親子連れの方、中にはベビーカーを押して来た女性もいて、外国人の女性もたくさんいました。正確なカウントはしていないのですが、見た感じ、全体の3割くらいは女性だったのではないでしょうか。

つくろい東京ファンド提供今年の「ゴールデンウィーク大人食堂」の会場=東京都千代田区、つくろい東京ファンド提供
 女性相談ブースに来る方は初日は少なかったのですが、2日目はひっきりなしに来ている状態で、私が見ただけで20人位は来ていました。外国人女性を入れたらその倍いたと思います。内容は、かなり深刻な話が多かったですね。去年からの傾向で、リーマンショックの頃に比べて、女性の相談は桁外れに多いのですが、その内容もどんどん深刻になっていると感じています。

 「年越し派遣村」(2008~2009年)の時は、相談に来た505人のうち、女性は5人だけでした。でも、この年末年始に、「派遣村」を担ったメンバーが企画した「コロナ被害相談村」では、344人中62人が女性でした。しかも、62人のうち、29%がすでに住まいがない状態で、21%が所持金1000円以下だったんです。

 かなりの規模で女性のホームレス化が起こっているのではないかと思い、年末年始の相談会を受けて、3月13日、14日に「女性による女性のための相談会」を開催することになったんです。

 これまで15年間、反貧困の活動を続けてきましたが、この間、「失業のみを原因としてホームレス化した女性」には会ったことがありませんでした。これまでは失業の問題より先に、「DVで逃げてきて、住民票を移動できないから安定した仕事ができない」とか、「親の虐待で逃げてきて、ネットカフェ生活をしている」という女性には会ってきましたが、この一年で初めて「ホームレス化する理由が失業だけ」という女性、例えば「コロナで派遣を切られて、家賃を滞納して、親との関係も疎遠になっていて頼れないから、路上生活になった」という事情の方に会うようになりました。

 十年前にはまだ家族福祉や企業福祉が機能していた。実家に帰れたとかあったかもしれないし、企業でも女性だから追い出さずに社宅にいられた、ということがあったかもしれない。また、リーマンショック時は少なくない女性が性風俗に流れたというデータもあるらしく、性産業がある意味で「セーフティネット」の機能を果たす形になっていた面もあります。それが今回はコロナで性風俗産業も壊滅的な被害を被っている。

「女性による女性のための相談会」の会場では新品の衣類やマスク、食料品、生花などの支援物資が用意されたほか、子ども向けのスペースも設けられた=2021年3月13日、東京都新宿区、実行委員会提供

「女性不況」。炊き出しに並ぶ女性が増え、多様な職業に拡大

稲葉 去年の4月~5月の緊急事態宣言の時は、東京などでネットカフェに休業要請が行われたので、緊急にメールの相談フォームを作って、駆けつけ型の緊急支援を始めたのですが、その時に支援につながった約170人のうち、約2割が女性でした。その時は性風俗で働いている女性の相談も何件もあったのですが、もともと困窮していて、ネットカフェ生活をしていた方がほとんどでした。

 その後、秋以降、特に今年に入ってからは各地の炊き出しに来る人の中に女性の姿が目立つようになりました。職種的にも風俗店や居酒屋などの飲食店だけでなく、ヨガやジムのインストラクターやアパレル関係、スーパーの試食販売員など、さまざまな職種に広がってきたという印象を持っています。コロナ下での不況は「女性不況」と言われますが、飲食業や観光業などのサービス業で、非正規で働いている人は、もともと女性が多いので、そこに一番しわ寄せが行っているという状況がありますね。

 ただ、ホームレス支援の現場に集まる人は、もともと中高年の男性がほとんどだったので、私たちも女性や若者が来るとびっくりして注目してしまう、ということがあるわけですが、全体の割合からすると、まだ男性の方がずっと多いわけです。その裏には、まだ民間の支援にもつながっていない女性がたくさんいるのではないか、と思っています。

女性相談会に助けを求めた女性。サポートを受けながら生活保護を申請し、求職活動を続けた=2021年4月

あり得ないことが起き続けている

雨宮 3月の女性の相談会に来た方で、私が生活保護申請に同行した人が何人かいるのですが、そのうち一人は2018年から家がない状態で、日雇いの仕事をしながら、ずっと転々としている人でした。お金がない時は野宿をしていたそうで、相談会に来た日は大雨が降っていたのですが、「今日も野宿だ」とおっしゃっていました。

 それは大変だということで、すぐにその場から役所に行って生活保護申請をして、その日からビジネスホテルに泊まれることになったので良かったのですが、この一年で目立つのはそういう状況の方です。中には10年以上、ネットカフェ生活をしていて、コロナがあったから初めて支援団体につながったという人もいました。その人たちは、コロナがなければ、今もギリギリの綱渡り生活をしていたのではないかと思います。

 その一方で、女性の相談会には派遣でずっと働いてきて、月収十数万を稼いで生活をしていたけど、去年の夏頃に派遣を切られた。それからは短期の仕事で食いつないできたけれど、とうとう貯金が尽きて、所持金が1万、2万しかない。このままだとアパートも失ってしまう、という方も相談に来ていて、生活保護につなぎました。

 その人たちも、コロナ以前からギリギリの生活をしていたわけで、コロナで仕事が止まらなくても、病気やケガをしたら、生活保護か、それに抵抗があるなら路上しかない、という状態だったわけです。そういう崖っぷちのところにいて、落ちないようにしていた人が大量にいたんだな、ということがコロナで見えてきたと思います。

 この一年間、本当にありえないことが起きている。それまで住まいがあった女性が、失業のみを要因として、一気にホームレス化していくというのを目の当たりにしているわけです。

 また、シェアハウスに住んでいて、追い出されたという相談も多いですね。

困窮する女性に公的支援をつなぐよう小池百合子東京都知事に要望した「女性による女性のための相談会」実行委員会のメンバー。左から3人目が雨宮処凛さん=2021年3月2日、東京都庁

住まい失う人々。高まる入居のハードル

「住まいの貧困に取り組むネットワーク」の設立集会。パネリストの左から2人目が筆者=2009年3月14日、東京都新宿区

稲葉 住まいの貧困ネットは、リーマンショックの後、2009年に設立をしたのですが、当時、焦点になっていたのは賃貸住宅の「追い出し屋」問題でした。家賃を1~2ヶ月、滞納しただけで、大家や不動産業者、家賃保証会社が法律を無視して、賃借人を無理矢理、追い出してしまうのが社会問題になっていたのですが、各地で追い出された被害者を支援する弁護士が損害賠償訴訟を起こして勝訴したので、一定、追い出し行為を抑止できるようになりました。

雨宮処凛さんとの対談で発言する筆者=2021年5月19日、衆議院第二議員会館
 昨年の3月にコロナ禍が始まって、また追い出し行為が増えるのではないかと懸念したので、住まいの貧困ネットで「すべての家主、不動産業者、家賃保証会社への緊急アピール」というのを出しました。これは、「家賃を滞納する人を立ち退かせるのはやめてください。追い出すではなくて、立場を越えて政府に公的支援の充実、家賃の保障を求めましょう」という内容でした。

 それから1年以上が経って、住まいを失う人が増えてきているわけですが、「追い出し屋」の相談は実はあまり増えていません。それはなぜなんだろう、ということを関係者で議論しているのですが、おそらく2つの要因があると思われます。

 1つは、未だに「賃借人に居住権がある」ということが知られていないので、家賃を滞納しそうになったら、自分から身を引いて出てしまう人が多いのではないかと思っています。

雨宮 特に女性にはそういう人が多いですね。

稲葉 もう1つは、賃貸住宅に入るハードル自体が高くなっているという問題です。東京では、部屋を借りる時に個人の保証人ではなく家賃保証会社を利用するのが一般的になっていますが、保証会社は家賃滞納の履歴がある人のデータベース、ブラックリストを作っているので、滞納歴がある人が部屋を借りにくくなっています。また、初期費用も高いので、そもそも不動産屋経由で部屋を借りること自体が難しくなっているわけです。

 部屋を借りられない人たち、特に若い人たちはシェアハウスに暮らしていることが多いのですが、シェアハウスの場合、賃貸の契約があいまいになっているところが多く、少し家賃を滞納しただけですぐに追い出されてしまう、という話をよく聞きます。

シェアハウスの危険性。中身は「貧困ビジネス」の業者も

筆者との対談で発言する雨宮処凛さん=2021年5月19日、衆議院第二議員会館

雨宮 そもそもシェアハウスが全国に何軒あって、何人が住んでいるかというデータさえない、という話を研究者の方から聞いたことがあります。そういう状況ですから、この一年間に何人がシェアハウスから追い出されたか、ということもブラックボックスになっているわけですよね。

 シェアハウスの中には、ホームページを見ると「住民同士、楽しく交流しています」という「キラキラ系」のアピールをしているところもありますが、そういうところでも家賃を1ヶ月滞納しただけで追い出されています。しかも契約書にすごく小さい字で「2年以内に退去する場合は10万円を支払わなければならない」という規定が書かれてあるようなところもあるわけです。お金がないから家賃を滞納しているのに、10万円なんて払えるわけがない。一見、「キラキラ系」ですが、中身は「貧困ビジネス」と変わらないところも少なくない。

 また、ダイエットなどの「コンセプト系シェアハウス」では、体脂肪率と家賃が連動しているところもあるそうす。そういうところでは、肖像権についても契約書を書かされて、顔出しでインタビューを受けるなどPRに協力すると初期費用が安くなったりするそうですが、ネットで顔を出して、どこに住んでいるのかもわかるということは、ストーカー被害に遭うリスクもあって、非常に危険です。

 シェアハウスには厳しい規制がなくて、誰でも登録をすることなく開設することができます。そこに住んでいる人で、一番多いのは20代の女性で、非正規で収入が少なく、アパートの初期費用を払えないからシェアハウスを選んでいる、という人も多いようです。シェアハウスへの規制も必要だというのは省庁にも訴えていく必要があります。

ホームレス女性殺害事件。「いつ同じ状態になるかもしれぬ」

死亡した女性が倒れていた現場には花が手向けられていた。女性はバス停のベンチに座っていたところを殴られた=2020年11月21日、東京都渋谷区幡ケ谷2丁目

稲葉 そういう中で、昨年の11月には渋谷区幡ヶ谷で60代のホームレスの女性が地域住民に襲撃をされて殺されるという事件が起きました。この事件に抗議するために行われたデモに雨宮さんも参加されましたよね。

雨宮 デモには「彼女は私だ」というプラカードを掲げていた女性もいましたし、リレートークでは「自分自身もコロナで非正規の仕事を切られて、いつ彼女と同じ状態になるか、わからない」と話されている方もいて、本当にその通りだと思いました。

 去年の3月に全国ユニオンが行ったホットラインでも、スーパーの試食販売員の仕事が2月中旬からなくなった、という相談が派遣の女性から来ていたんですね。1年前から飲食や観光の仕事が大打撃を受けていたことはよく知られているけど、対面販売の仕事も切られていたんですね。

 ちなみに住まいの問題だと、私もフリーランスの物書きで、社会的信用がゼロなので、入居審査で落とされるんですよね。

稲葉 以前、住まいの貧困ネットの集会で、当事者として話をしていただきましたね。

社会的信用が得にくい境遇の人の負担が重くなる「貧困税」

雨宮 仕事がフリーランスで、単身女性なので、保証人は父親しかいないのですが、父親が65歳以上になった途端、65歳以上の人は保証人の資格がないと言われました。会社によっては高齢になると保証人として認めないそうなのですが、それで入居審査に落ちたんです。

筆者との対談で発言する雨宮処凛さん=2021年5月19日、衆議院第二議員会館
 それでも他の物件をなんとか見つけたんですが、そこは家賃保証会社をつけなければ入居できないところで、その保証料が毎月7000円以上かかるんですね。最初、年に7000円だと思っていたのですが、毎月取られていて、自分の社会的信用のなさために毎年8万円以上の罰金を払っているという、よくわかんない状況です。これは、貧困者だから負担が重くなるという「ポバティ・タックス(貧困税)」そのものですよね。

 しかも、そこの家賃はクレジットカードでしか支払えないようになっていて。私はフリーターから物書きになって、正社員になったことがないので、クレジットカードの審査にも落ち続けていたんですよね。

 それでずっと不便な思いをして来たんですけど、その物件に入る直前、クレジット機能つきの百貨店のカードの審査に奇跡的に通って、やっと持つことができた。それでなんとか入居できたんですが、今後、電子決済が広がると、クレジットカードを作れない人は何もできない、ということになってしまいそうで、恐ろしいですよね。

キャッシュレス決済が原因で住居も電話も仕事も行き詰まる

稲葉 私もそれは心配しています。この間、SOSを出してくる若者の中に、電話が止まっている人が増えているのですが、その理由を聞いてみると、貧困で電話代が払えなかったというだけではなくて、携帯電話会社が進めているキャリア決済サービス(携帯電話料金と合算で商品などの代金を支払うことができる決済サービス)で買い物をして、その引き落としができなかったので、電話も止まった、という人が多いんですよね。短期の仕事でつないでいる人は、手持ちの現金がない時に生活必需品をキャリア決済で買う人が多いのですが。引き落としができないと電話も止まってしまうので、仕事も探せなくなって、行き詰ってしまう、という話があります。

 キャッシュレス決済が広がることで、賃貸住宅に入れなくなる、通信手段を確保できなくなる、仕事も探せなくなる、という何重もの社会的排除に直面する人が増えてきてますね。

スマホの利用停止で通話ができなくなった人たちは無料Wi-Fiが命綱になる。「つくろい東京ファンド」は利用者が急している食料支援の会場で無料Wi-Fiや端末の充電コーナーも提供している=2020年11月28日、東京都豊島区東池袋3丁目

雨宮 いろんなトラップがありますね。「父親が65歳以上になる」ということは誰もトラップだと思わないじゃないですか(笑)。時間の経過は誰も抗えないのに、親が65歳以上になっただけで社会的信用がガタ落ちしてしまう。

 「単身女性トラップ」もあって、私がもし65歳未満の正社員男性と「つがい」になっていたら、入居審査には落ちないでしょう。もしくは「永遠に年をとらないお父さんがいる」とか。でもそれは「無理ゲー」ですよね。

 携帯も料金を滞納したら、それが各社で共有されて、携帯をなかなか作れなくなるとか、クレジットカードや家賃の滞納も共有されて、ブラックリストに載ってしまうとか、地獄のようです。

 そして、特に滞納がなくても、高齢になったら賃貸物件への入居を断られるし、非正規で働いていると入居審査に落とされて、条件のいい物件にはなかなかは入れない。そういう住まいをめぐる格差、差別の問題はもっと知られてほしいです。

外国籍の人々への生活と住居の保障を

稲葉 「ゴールデンウィーク大人食堂」には、ナイジェリア、エチオピア、カメルーン、ミャンマーなど、外国籍の方もたくさん来られていました。そのほとんどは難民申請中で、入管の収容施設から仮放免されている方も多かったのですが、就労ができる在留資格がなく、生活保護も使えないために食べ物にも事欠く生活をされている方が多かったです。先日、入管法の改悪案が見送られたのは良かったですが、こうした外国人の生活や住居の保障をどうするか、というのは大きな課題としてあります。

 私が代表を務める「つくろい東京ファンド」では、昨年春以降、アパートの空き室を活用した個室シェルターを増設していて、現在、都内で59室を運用しています。シェルターは10代から70代の方に利用していただいているのですが、外国籍の方も何人も入っていらっしゃいます。最近は、軍事クーデターのあったミャンマーの方からの相談が増えています。

 ある外国人の方は、長年、住んでいたアパートの家賃が払えなくなって、住居確保給付金の窓口に相談に行ったそうですが、資格がないと言われてしまいました。住居確保給付金は期間限定で家賃を補助してくれる仕組みですが、その期間内に就労自立をめざすことが前提となっているので、難民申請中で就労の資格のない人は使えないと言われたそうです。

雨宮 去年の春、コロナ禍を受けてドイツでは「家賃を滞納しても大家が追い出してはいけない」というルールができたという話を聞いたのですが、シンプルでとても良いですよね。「家賃を滞納しても、とりあえず追い出されない」という安心感があると、本人も精神的に楽だと思います。日本ではなぜ、「今いるところにいられる」というシンプルな対策が進まないのでしょうか。

会場の出入り口に掲げられた「年越し支援・コロナ被害相談村」の幕。「食べ物、カウンセリング、医者、弁護士」と英語で書かれた案内も張り出された=2021年1月2日、東京都新宿区の区立大久保公園

貧困対策は自立を。まず「住まいの安定」から

稲葉 住居確保給付金は、リーマンショックの後にできた住宅手当がもとになっていますが、住宅支援というより再就職支援という性格が強い制度だと思います。「次の仕事が見つかるまでの間、期間限定で家賃を補助しますよ」という発想ですね。でも、実際は仕事を探そうにもコロナで仕事自体がないという状態です。

 私は貧困対策が労働市場に依存し過ぎているのが問題だと思っています。

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