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[53]雨宮処凛さんと語る「コロナ禍の生活苦と住まいの貧困」~野戦病院の現場から

底が抜け続ける社会で求められる政策とは

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

女性のホームレス化が進む。失業だけが原因という衝撃

雨宮 大人食堂では女性の相談を担当していて、「女性相談」ブースにずっといたので、全体像をあまり見れていないのですが、1日目も2日目も食料をもらいに来る方で女性の方が多かったですよね。若い女性や親子連れの方、中にはベビーカーを押して来た女性もいて、外国人の女性もたくさんいました。正確なカウントはしていないのですが、見た感じ、全体の3割くらいは女性だったのではないでしょうか。

つくろい東京ファンド提供拡大今年の「ゴールデンウィーク大人食堂」の会場=東京都千代田区、つくろい東京ファンド提供
 女性相談ブースに来る方は初日は少なかったのですが、2日目はひっきりなしに来ている状態で、私が見ただけで20人位は来ていました。外国人女性を入れたらその倍いたと思います。内容は、かなり深刻な話が多かったですね。去年からの傾向で、リーマンショックの頃に比べて、女性の相談は桁外れに多いのですが、その内容もどんどん深刻になっていると感じています。

 「年越し派遣村」(2008~2009年)の時は、相談に来た505人のうち、女性は5人だけでした。でも、この年末年始に、「派遣村」を担ったメンバーが企画した「コロナ被害相談村」では、344人中62人が女性でした。しかも、62人のうち、29%がすでに住まいがない状態で、21%が所持金1000円以下だったんです。

 かなりの規模で女性のホームレス化が起こっているのではないかと思い、年末年始の相談会を受けて、3月13日、14日に「女性による女性のための相談会」を開催することになったんです。

 これまで15年間、反貧困の活動を続けてきましたが、この間、「失業のみを原因としてホームレス化した女性」には会ったことがありませんでした。これまでは失業の問題より先に、「DVで逃げてきて、住民票を移動できないから安定した仕事ができない」とか、「親の虐待で逃げてきて、ネットカフェ生活をしている」という女性には会ってきましたが、この一年で初めて「ホームレス化する理由が失業だけ」という女性、例えば「コロナで派遣を切られて、家賃を滞納して、親との関係も疎遠になっていて頼れないから、路上生活になった」という事情の方に会うようになりました。

 十年前にはまだ家族福祉や企業福祉が機能していた。実家に帰れたとかあったかもしれないし、企業でも女性だから追い出さずに社宅にいられた、ということがあったかもしれない。また、リーマンショック時は少なくない女性が性風俗に流れたというデータもあるらしく、性産業がある意味で「セーフティネット」の機能を果たす形になっていた面もあります。それが今回はコロナで性風俗産業も壊滅的な被害を被っている。

拡大「女性による女性のための相談会」の会場では新品の衣類やマスク、食料品、生花などの支援物資が用意されたほか、子ども向けのスペースも設けられた=2021年3月13日、東京都新宿区、実行委員会提供

「女性不況」。炊き出しに並ぶ女性が増え、多様な職業に拡大

稲葉 去年の4月~5月の緊急事態宣言の時は、東京などでネットカフェに休業要請が行われたので、緊急にメールの相談フォームを作って、駆けつけ型の緊急支援を始めたのですが、その時に支援につながった約170人のうち、約2割が女性でした。その時は性風俗で働いている女性の相談も何件もあったのですが、もともと困窮していて、ネットカフェ生活をしていた方がほとんどでした。

 その後、秋以降、特に今年に入ってからは各地の炊き出しに来る人の中に女性の姿が目立つようになりました。職種的にも風俗店や居酒屋などの飲食店だけでなく、ヨガやジムのインストラクターやアパレル関係、スーパーの試食販売員など、さまざまな職種に広がってきたという印象を持っています。コロナ下での不況は「女性不況」と言われますが、飲食業や観光業などのサービス業で、非正規で働いている人は、もともと女性が多いので、そこに一番しわ寄せが行っているという状況がありますね。

 ただ、ホームレス支援の現場に集まる人は、もともと中高年の男性がほとんどだったので、私たちも女性や若者が来るとびっくりして注目してしまう、ということがあるわけですが、全体の割合からすると、まだ男性の方がずっと多いわけです。その裏には、まだ民間の支援にもつながっていない女性がたくさんいるのではないか、と思っています。

拡大女性相談会に助けを求めた女性。サポートを受けながら生活保護を申請し、求職活動を続けた=2021年4月

あり得ないことが起き続けている

雨宮 3月の女性の相談会に来た方で、私が生活保護申請に同行した人が何人かいるのですが、そのうち一人は2018年から家がない状態で、日雇いの仕事をしながら、ずっと転々としている人でした。お金がない時は野宿をしていたそうで、相談会に来た日は大雨が降っていたのですが、「今日も野宿だ」とおっしゃっていました。

 それは大変だということで、すぐにその場から役所に行って生活保護申請をして、その日からビジネスホテルに泊まれることになったので良かったのですが、この一年で目立つのはそういう状況の方です。中には10年以上、ネットカフェ生活をしていて、コロナがあったから初めて支援団体につながったという人もいました。その人たちは、コロナがなければ、今もギリギリの綱渡り生活をしていたのではないかと思います。

 その一方で、女性の相談会には派遣でずっと働いてきて、月収十数万を稼いで生活をしていたけど、去年の夏頃に派遣を切られた。それからは短期の仕事で食いつないできたけれど、とうとう貯金が尽きて、所持金が1万、2万しかない。このままだとアパートも失ってしまう、という方も相談に来ていて、生活保護につなぎました。

 その人たちも、コロナ以前からギリギリの生活をしていたわけで、コロナで仕事が止まらなくても、病気やケガをしたら、生活保護か、それに抵抗があるなら路上しかない、という状態だったわけです。そういう崖っぷちのところにいて、落ちないようにしていた人が大量にいたんだな、ということがコロナで見えてきたと思います。

 この一年間、本当にありえないことが起きている。それまで住まいがあった女性が、失業のみを要因として、一気にホームレス化していくというのを目の当たりにしているわけです。

 また、シェアハウスに住んでいて、追い出されたという相談も多いですね。

拡大困窮する女性に公的支援をつなぐよう小池百合子東京都知事に要望した「女性による女性のための相談会」実行委員会のメンバー。左から3人目が雨宮処凛さん=2021年3月2日、東京都庁

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筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)、『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために』(エディマン/新宿書房)、『生活保護から考える』(岩波新書)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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