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[53]雨宮処凛さんと語る「コロナ禍の生活苦と住まいの貧困」~野戦病院の現場から

底が抜け続ける社会で求められる政策とは

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

ホームレス女性殺害事件。「いつ同じ状態になるかもしれぬ」

拡大死亡した女性が倒れていた現場には花が手向けられていた。女性はバス停のベンチに座っていたところを殴られた=2020年11月21日、東京都渋谷区幡ケ谷2丁目

稲葉 そういう中で、昨年の11月には渋谷区幡ヶ谷で60代のホームレスの女性が地域住民に襲撃をされて殺されるという事件が起きました。この事件に抗議するために行われたデモに雨宮さんも参加されましたよね。

雨宮 デモには「彼女は私だ」というプラカードを掲げていた女性もいましたし、リレートークでは「自分自身もコロナで非正規の仕事を切られて、いつ彼女と同じ状態になるか、わからない」と話されている方もいて、本当にその通りだと思いました。

 去年の3月に全国ユニオンが行ったホットラインでも、スーパーの試食販売員の仕事が2月中旬からなくなった、という相談が派遣の女性から来ていたんですね。1年前から飲食や観光の仕事が大打撃を受けていたことはよく知られているけど、対面販売の仕事も切られていたんですね。

 ちなみに住まいの問題だと、私もフリーランスの物書きで、社会的信用がゼロなので、入居審査で落とされるんですよね。

稲葉 以前、住まいの貧困ネットの集会で、当事者として話をしていただきましたね。

社会的信用が得にくい境遇の人の負担が重くなる「貧困税」

雨宮 仕事がフリーランスで、単身女性なので、保証人は父親しかいないのですが、父親が65歳以上になった途端、65歳以上の人は保証人の資格がないと言われました。会社によっては高齢になると保証人として認めないそうなのですが、それで入居審査に落ちたんです。

拡大筆者との対談で発言する雨宮処凛さん=2021年5月19日、衆議院第二議員会館
 それでも他の物件をなんとか見つけたんですが、そこは家賃保証会社をつけなければ入居できないところで、その保証料が毎月7000円以上かかるんですね。最初、年に7000円だと思っていたのですが、毎月取られていて、自分の社会的信用のなさために毎年8万円以上の罰金を払っているという、よくわかんない状況です。これは、貧困者だから負担が重くなるという「ポバティ・タックス(貧困税)」そのものですよね。

 しかも、そこの家賃はクレジットカードでしか支払えないようになっていて。私はフリーターから物書きになって、正社員になったことがないので、クレジットカードの審査にも落ち続けていたんですよね。

 それでずっと不便な思いをして来たんですけど、その物件に入る直前、クレジット機能つきの百貨店のカードの審査に奇跡的に通って、やっと持つことができた。それでなんとか入居できたんですが、今後、電子決済が広がると、クレジットカードを作れない人は何もできない、ということになってしまいそうで、恐ろしいですよね。

キャッシュレス決済が原因で住居も電話も仕事も行き詰まる

稲葉 私もそれは心配しています。この間、SOSを出してくる若者の中に、電話が止まっている人が増えているのですが、その理由を聞いてみると、貧困で電話代が払えなかったというだけではなくて、携帯電話会社が進めているキャリア決済サービス(携帯電話料金と合算で商品などの代金を支払うことができる決済サービス)で買い物をして、その引き落としができなかったので、電話も止まった、という人が多いんですよね。短期の仕事でつないでいる人は、手持ちの現金がない時に生活必需品をキャリア決済で買う人が多いのですが。引き落としができないと電話も止まってしまうので、仕事も探せなくなって、行き詰ってしまう、という話があります。

 キャッシュレス決済が広がることで、賃貸住宅に入れなくなる、通信手段を確保できなくなる、仕事も探せなくなる、という何重もの社会的排除に直面する人が増えてきてますね。

拡大スマホの利用停止で通話ができなくなった人たちは無料Wi-Fiが命綱になる。「つくろい東京ファンド」は利用者が急している食料支援の会場で無料Wi-Fiや端末の充電コーナーも提供している=2020年11月28日、東京都豊島区東池袋3丁目

雨宮 いろんなトラップがありますね。「父親が65歳以上になる」ということは誰もトラップだと思わないじゃないですか(笑)。時間の経過は誰も抗えないのに、親が65歳以上になっただけで社会的信用がガタ落ちしてしまう。

 「単身女性トラップ」もあって、私がもし65歳未満の正社員男性と「つがい」になっていたら、入居審査には落ちないでしょう。もしくは「永遠に年をとらないお父さんがいる」とか。でもそれは「無理ゲー」ですよね。

 携帯も料金を滞納したら、それが各社で共有されて、携帯をなかなか作れなくなるとか、クレジットカードや家賃の滞納も共有されて、ブラックリストに載ってしまうとか、地獄のようです。

 そして、特に滞納がなくても、高齢になったら賃貸物件への入居を断られるし、非正規で働いていると入居審査に落とされて、条件のいい物件にはなかなかは入れない。そういう住まいをめぐる格差、差別の問題はもっと知られてほしいです。

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筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困パンデミック』(明石書店)、『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)、『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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