2021年05月28日
5月25日は、2020年にミネソタ州ミネアポリスで警官によって殺害されたジョージ・フロイド氏(当時46歳)の一周忌だった。今さら改めて説明の必要もない、BLM(ブラック・ライブス・マター)運動のきっかけとなった、黒人に対する警察の暴行事件から1年がたったのである。
フロイド氏が逮捕されたもともとの理由は、タバコを購入した店でニセ札の疑惑がある紙幣(それが実際にニセ札だったのかどうか、公表されていない)を使用したことだった。これに関しては、筆者も他人事ではない思いがある。
筆者がニューヨーク州北部の全寮制の高校を卒業し、マンハッタンで一人暮らしをして間もないころのことである。アジア系(韓国系か中国系か、はっきり記憶にない)の店で買い物をした際に10ドル紙幣を出すと、それを受け取った女性の店員が、いきなり「Counterfeit!!(ニセ札だわ!!)」と大声で叫びだしたのだ。
ご存じのように、アメリカの紙幣は、日本の紙幣に比べてとてもシンプルである。手嶋龍一氏の『ウルトラ・ダラー』という、ニセ札製造にまつわるセミドキュメンタリーの名著があるが、印刷が単純で国際的価値の高い米ドルは、ニセ札ビジネスのターゲットにされてきた。実際、市場でも、ニセ札はかなり出回っている。
さて目の前でいきなり「Counterfeit!!」と叫ばれ、私は何が起きたのかとっさに理解できずにぼんやり立っていた。「Counterfeit? それって確か、『ニセ札』のことでは……」と思い当たったが、当然自分が偽造したわけではないので罪悪感もなかったし、慌てることもなかった。本当にニセ札なら、つかまされた私も被害者だ。
すると奥から年配の男性が出てきて、叫んでいた女性に何かを言って落ち着かせた。そしてお札を改めて見ると、黙って私にお釣りを出してくれた。
あれが本当にニセ札だったのか、彼女の勘違いだったのか、未だにわからない。もしニセ札だとしたら、なぜ受け取ってくれたのか、これも未だに謎だ。
こちらの銀行の窓口で入金するときにニセ札が混ざっていると、あっという間に没収されると聞いた。当然その損害分は、自分が被ることになる。自分がニセ札を作ったわけではない。自分は悪くないのに、$20や$50があっという間に消滅するのは何とも納得がいかないではないか。ババ抜きのババをつかまされたのと同じだ。
フロイド氏はパンデミックで職を失い、生活に余裕があったわけではないだろう。そして彼は決して聖人君子ではなく、過去に強盗の前科もあり、薬物使用歴もあった。運悪く回ってきたババを、早くどこかで使ってしまいたいという気持ちがあったのかもしれない。
でも自分の命を$20と引き換えにするつもりは、毛頭なかっただろう。
後ろ手に手錠をはめられて地面に転がせられ、身動きが取れなくなったフロイド氏は、窒息死した。狩られた獣のように首を膝で押さえつけられ、「息ができない」と何度も訴えたにもかかわらず、4人の警官(その後全員免職)は誰一人として彼を助けようとはしなかった。9分29秒(時間は諸説あるが、残っているビデオはすでに彼が抑え込まれたところからスタートしていて、現在米国のメディアでは9分29秒というのが一般的)、膝に体重を乗せ続けた元警察官、デレク・ショービンは(殺意の有無に関わらず適用される)第2級殺人罪などで起訴された。
ショービン被告の法廷は今年の3月に始まり、4月20日に陪審員は全員一致で起訴内容すべてに関しての有罪評決を下した。5月4日、彼の弁護士は裁判が公正なものではなかった、と主張し、やり直しを申し立てるも裁判所は却下。実際の量刑は判事が6月25日に言い渡す。
ショービン被告の裁判では、多くの証人が証言に立ち、酸鼻極まる詳細が改めて明らかになった。中でも衝撃的だったのは、
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