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映画上映に右翼団体の圧力続発~厚木の映画館が中止、横浜では屈せず上映

中止の説明に残る疑問。表現の自由を守るため、何があったのか解明を

茂木克信 朝日新聞田園都市支局長

「街の映画館」の決意。「暴力に決して屈しない」と上映完遂

拡大映画『狼をさがして』公式ホームページから
 シネマリンは、館内に立ち入っての高圧的な要求は見過ごせないと判断。八幡温子(やわた・あつこ)支配人は翌8日、地元警察署に被害を相談し、10日に声明を発表した。

 自らを「映画の多様性を重視した作品選定をし、市民に映画を提供している街の映画館です」とし、右翼団体の行為を「言論の自由を妨げるだけでなく、来場者、劇場スタッフに身の危険を感じさせる行為であり、到底許されるものではありません」と非難。「その主張は、映画の内容を歪曲(わいきょく)するもので、的外れな主張で相手を攻撃することは暴挙であり、これもまた決して許されるものではありません」と続け、「暴力的、且(か)つ的外れな抗議行動に決して屈することなく、上映を続けます」と決意を示した。

 そして、その言葉通り、予定していた21日まで上映を続けた。

 シネマリンは、前身を含めると70年近い歴史がある。ただ、八幡さんの手で再オープンしてからは、まだ7年に満たない。

閉館の危機に経営引き受け、ファンと共に守る映画館

拡大『狼をさがして』の上映をやり抜いた横浜シネマリン。明治時代から栄えた横浜の繁華街・伊勢佐木町の界隈にある老舗映画館だ=横浜市中区
 八幡さんは横浜市内で不動産業を営むかたわら、映画ファンの思いが反映される映画館を造ることをめざす市民グループに参加していた。そうした中、2014年春にシネマリンの関係者から、閉館を避けるために経営を引き継がないかと誘われ、引き受けた。

 運営会社を買い取ると、私財を5千万円以上投じて館内を大幅に改修した。スクリーンを一回り大きくするために前4列の座席を取って102席(約4割減)にしたほか、デジタルの映写機を入れたり、内装や照明、音響に手を入れたりした。

 八幡さんの気さくな人柄もあって、常連客はチケット売り場や事務室にいる八幡さんを見かけると、世間話や映画談義をしてくる。映画ファンとともに大切にしてきた「街の映画館」が、言論によらない不当な圧力にさらされた。

 『狼をさがして』の上映期間の終了後、八幡さんは取材に「連日多くの客が映画を見に来てくれた。応援のカンパや手紙もたくさんいただき、ありがたいことです」と話した。

 シネマリンに7日に立ち入った右翼団体の2人は、「厚木市では上映を中止したのに、シネマリンはなぜ中止しないのか」と、しつこく迫ったという。


筆者

茂木克信

茂木克信(もてぎ・よしのぶ) 朝日新聞田園都市支局長

1973年、福岡県生まれ。97年朝日新聞社入社。盛岡支局(現総局)、豊橋支局、名古屋社会部、東京社会部、仙台総局、石巻支局、秋田総局次長などを経て、2019年5月から現職。同年9月から神奈川県政担当を兼務。個人情報を含む膨大な行政文書が記録された同県庁のハードディスクが、ネットオークションで転売されていたことをつかみ、同年12月6日付朝刊で特報。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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