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「オンライン授業は孤立を深める」論は正しいか?

対面と組み合わせ、真の「教養」教育の復活を

西郷南海子 教育学者

 新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの高等教育機関がオンライン授業を継続している。本稿では、オンライン授業に対する単純な「いい/悪い」論争を超えて、オンライン授業と対面授業のそれぞれの機微に迫ることを目標とする。

 筆者は関西の短期大学で、保育者養成コースに携わっている。この「短大」から見える景色というのは、四年制大学とは大きく異なる。特に旧帝大を中心とした四年制大学には「モラトリアム」の空気がそこはかとなく漂うが、短大には一切そういった雰囲気はない。最短距離・最短時間で就職するためのプログラムが組まれている。しかしながら、学生たちは高校から進学してきたばかりなので、互いに非常に親密というか、何より「若い」。2mというフィジカルディスタンスも存在しない世界で、筆者が考えてきたことを少し綴りたいと思う。

多様な「オンライン授業」、是か非か議論を超えて

まずオンライン授業に関する評価として、「大学に行く機会がなく、孤立を深めてしまう」というものがよく聞かれる。これは、大学側のプログラムの問題であって、「オンライン授業」そのものに対する評価ではない。またこうした意見に対して「大学は友達を作る場所ではない(=個人で勉強をする場所だ)」というものもあるが、それも今日の実情にあっていないだろう。そして何よりオンライン授業にも複数のタイプがある。

 リアルタイム型:ZOOMなどの会議システムを使って、その日その時間に授業を行うもの
 オンデマンド型:授業資料や動画をインターネットに上げるなどして、指定の期間に学習・視聴するもの
 ハイブリッド型:学生を対面授業に参加させ、残りの学生をインターネットから受講させるもの

 ざっと書き出してもこれだけの種類がある。しかも教員の創意工夫なども含めれば、「オンライン授業」といっても相当なバリエーションが存在することがわかる。したがって、「オンライン授業、是か非か」といった問いの立て方は、残念ながら無効であろう。評価するのであれば、極めて具体的な項目に関して行うべきである。

 ちなみに、筆者はオンデマンド型授業を行ってきた。リアルタイム型だと、教員・学生双方の通信環境が安定していることが前提となり、学生たちの家庭環境を無視してしまうことになりかねないからだ。筆者の場合、まずパワーポイントを中心とした授業動画を作り、それをYouTubeに限定公開し、視聴してもらう。そしてミニレポートをGoogleクラスルームで提出してもらっている。このオンデマンド型の弱点は、教員・学生の双方向のやりとりができないところにあるので、筆者の授業では、提出されたミニレポートでユニークなものを次回の冒頭で紹介するようにしている。これが意外と好評で、去年の期末アンケートでは「他の人の意見を知ることができて良かった」というものが多かった。いわゆる「若い人」が他の人の意見を知りたいと思っているというのは、発見でもあった。

 さらに印象的だったのは、オンデマンド型の授業は「個別指導」に近い形になり、秘密が守られるため、レポート内で学生個人のアイデンティティに関わる議論を提起してくれるケースもあった。最終回の「保育とジェンダー」では、保育という営みが長いこと「保母」と呼ばれてきたようにジェンダーの問題と不可分であることを紹介した。すると複数の学生が、それぞれ個別に自身がLGBTQs(性的少数者)であることを名乗り、授業テーマを自身の問題として論じてくれた。

 こういったことは、周囲を気にして萎縮しがちな大教室の授業ではほぼ起こりえないことである。

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