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【49】大阪府北部の地震から3年、教訓を首都直下地震対策に活かしたい

福和伸夫 名古屋大学減災連携研究センター教授

 大阪府北部の地震から3年が経つ。2018年6月18日7時58分、大阪府北部の震源深さ13kmでM6.1の地震が発生し、最大震度6弱の揺れを観測した。小規模な地震にもかかわらず、死者6人、負傷者462人、全壊家屋21棟、半壊483棟、一部損壊61,266棟の被害を出した(2019年4月1日現在)。

 同年に発生した同規模の島根県西部の地震(M6.1、深さ12km)では、最大震度5強、死者0人、負傷者9人、全壊17棟、半壊58棟、一部損壊576棟だった(2019年2月12日現在)。2つの地震は、規模、震源深さがほぼ同じだが、最大震度、人的被害、住家被害は大きく異なる。全壊数はあまり変わらないが、半壊は8倍強、一部損壊は100倍以上である。

拡大大阪北部地震で崩れて道をふさぐ寺の門=2018年6月18日、大阪府茨木市

人口集中は暴露量を増大させる

 大阪府と島根県の人口は882万人と68万人、面積は1,900km2と6,700km2なので、人口は13倍、人口密度は46倍である。その結果、局所的な地震で、大きな被害が出る。

 平成の30年間に内陸直下で発生したM7.3の3つの地震でも同様の差が生じた。1995年兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)、2000年鳥取県西部地震、2016年熊本地震の3地震の直接死者数は、約5500人、0人、50人と大きく異なる。人口集中は被害を指数関数的に増やす。そういう意味で、東京一極集中の是正は日本の将来を左右する。

 大都市ならではの問題もある。大阪北部地震で6人目の死者は、50代の一人暮らしの男性で、地震の約2週間後に発見された。都会には、独居の人が多く暮らしている。故郷を持たない都会人も多い。現代は、1923年関東地震(関東大震災)の時のように故郷に疎開することが難しい。

 実は、建物の耐震的実力も建物階数によって異なる。兵庫県南部地震では、建物階数が増える程、被害は大きかった。大都市に多い壁の少ない高さ30~60m程度の事務所ビルは、耐震基準で規定する地震力を上回ると、損壊の可能性が高く事業継続が難しい。

人口集中はハザードを増大させる

 現在の大阪府と島根県の震度観測点は88と71である。面積は3.5倍違うので、大阪府の観測点密度は4.4倍である。観測点が多ければ、震源の近くの揺れを観測できるので、最大震度は大きくなる。

 人口集中すると、まちは軟弱地盤に拡大する。大阪府と島根県の観測点の揺れやすさを比べると、大阪は平均的に1.5倍くらい揺れやすい。これらが、大阪府北部の地震と島根県西部の地震の最大震度の差を生み出した。同様のことは、兵庫県南部地震での最大震度7と鳥取県西部地震の6強の違いでも確認できる。

 ちなみに、兵庫県南部地震での大阪府の最大震度は4だった。当時の大阪府の観測点は上町台地上の大手前の1カ所だった。この場所の揺れの強さを2つの地震で比べると、26年前の揺れは3倍程度だった。大阪府北部の地震で最大震度6弱を観測したのは、観測点数が88倍になったからである。大阪府内の全壊家屋数が895棟から21棟へと1/43に減ったのも、揺れが小さかったためと考えられる。逆に言えば、一昔前だったら最大震度4程度の地震で6人もの死者を出したことは、大都市のハザードの大きさを感じさせる。

 同様のことは、東京でもいえる。都内の観測点密度は大阪府の1.3倍であり、地盤も若干軟弱である。このことから、東京都の最大震度は他の道府県より大きく観測されがちである。


筆者

福和伸夫

福和伸夫(ふくわ・のぶお) 名古屋大学減災連携研究センター教授

1957年に名古屋に生まれ、81年に名古屋大学大学院を修了した後、10年間、民間建設会社にて耐震研究に従事、その後、名古屋大学に異動し、工学部助教授、同先端技術共同研究センター教授、環境学研究科教授を経て、2012年より現職。建築耐震工学や地震工学に関する教育・研究の傍ら、減災活動を実践している。とくに、南海トラフ地震などの巨大災害の軽減のため、地域の産・官・学・民がホンキになり、その総力を結集することで災害を克服するよう、減災連携研究センターの設立、減災館の建設、あいち・なごや強靭化共創センターの創設などに力を注いでいる。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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