その挑戦の価値と可能性
2021年06月09日
6月6日まで行われた東京オリンピックの選考会を兼ねた全日本種目別選手権(高崎アリーナ)で、最後の種目、最後の演技者となった内村航平(32=ジョイカル)が着地を決め、15.100の得点が示されると、場内は歓声より、「これでどちらが代表になるの?」というような、ざわめきに包まれた。
前日の予選では15.766と世界最高得点をたたき出したが、疲労や、ここまで4月から4回の演技を重ねてきた緊張感の維持も困難だったはずだ。H難度の「ブレトシュナイダー」、G難度の「カッシーナ」など離れ技を決めたものの途中、ひねり技で乱れてしまう。ミスを何とかカバーして着地したが、内村は「これでもう(五輪出場も)終わったなと思っていた」と、演技中も頭の中で減点を計算しながら五輪出場は消えた、と自分に失望したという。熾烈な争いを堂々続けてきたライバル、米倉にすぐに謝罪したのは、満足な演技ができず、ミスをしながら代表になった「ふがいない」思いからだ。
日本の五輪史を輝かせてきた男子体操でも、4大会連続出場は、「鬼に金棒、小野に鉄棒」と称賛され、1956年メルボルン大会から64年東京まで金メダル5つを獲得した小野喬さん(89、妻で東京大会代表の清子さんが今年逝去)1人しかいない。
日体大生だった19歳、初めて大舞台に臨んでから13年かけた偉業だ。オンラインでの会見に臨んだ際、その長さを質問すると、「本当によく続けていますよね」と、ようやく笑顔を見せた。
「本当に体操が好きなんだと思う。どんなに打ちのめされても、ここまできている。体操が心底好きで、そこを追求して、その繰り返しでした。でも4大会行くとは・・・自分でも考えられない、冷静に凄いなぁと」
ダメ出しから、ようやくほんの少しだけ、自分をほめるのに、1時間以上を要した。
偉業達成の理由は、体操選手としての演技内容だけにとどまらない。
16年リオデジャネイロ五輪で、エースとして悲願の団体総合金メダルと、個人総合の連覇を果たし、栄光の真っただ中にいながら、荒野にあえて足を踏み出した。メダル有力種目でも「マイナー」とも呼ばれ、ともすれば五輪が行われる4年に1度しか注目を
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