団体側の構造を無視し「親子問題」に矮小化してはならない
2021年06月22日
NHKが「宗教2世」問題について、今年に入ってすでに3本の特集番組を放送した。今後も別番組を予定しているとも伝え聞く。
「宗教2世」とは、番組での説明を借りるなら「親が信じる宗教を信仰することを求められた子どもたち」(5月28日放送「かんさい熱視線」)のことだ。
この社会問題に大手メディアが注目することは歓迎したい。しかし一連の番組のうち特に2本は、この問題を正確に理解する上で障害となる歪みが目立った。その点を考えながら、2世問題の実情や、社会やメディアのあるべき姿を模索したい。
NHKによる宗教2世特集は、以下の3本だ。
・2月9日放送〈〝神様の子〟と呼ばれて〜宗教2世 迷いながら生きる〜〉(Eテレ、ハートネットTV)
・5月21日放送〈宗教2世 親に束縛された人生からの脱出〉(総合、逆転人生)
・5月28日放送〈私たちは〝宗教2世〟 見過ごされてきた苦悩〉(総合、かんさい熱視線)
「かんさい熱視線」は関西ローカルだが、3本の番組のうち唯一マトモな番組だった。好評だったのか6月17日に全国(NHK総合)で再放送されている。
「ハートネットTV」は、ものみの塔聖書冊子教会(その信者はエホバの証人と呼ばれる)や統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の2世と思しき人々が登場した。喫煙が教義に反するとして17歳の息子(証言者の兄)を家から追い出した母親。輸血を拒否して病気で亡くなった母親。非信者との恋愛を禁じられた2世。教義や布教活動との兼ね合いから大学進学や自由な就職を許されなかった2世。そんな人々が登場した。当人たちの語りを物静かで美しい映像とナレーションでまとめる構成だ。
「逆転人生」は、手記を出版したエホバ2世の坂根真実氏の体験の再現ドラマを中心とした構成。恋愛、結婚、進学、就職を制限された。親から学校での部活を認められず、信仰を強要するためにムチで叩かれる。高校生のときに教団をやめたいと言うと親から「やめるなら出ていきなさい」と言われる。そんなエピソードに対して、スタジオでタレントたちが当の坂根氏を交えて、コメントしあう。最後は、坂根氏が母親を許し感謝して前向きに生きているという趣旨のコメントとナレーションに、坂根氏が母親への手紙を書き投函する映像を重ねて、「感動的な締めくくり」だ。
いずれも親との関係に問題を矮小化し、こうした子育てを親に強要する団体側の実情には触れない番組だった。団体名自体を登場させず、「カルト」という言葉も出てこない。「ハートネットTV」で、エホバ2世の手記『カルト宗教やめました。』(たもさん・著)のタイトルと内容が短時間映された程度だ。
問題のない宗教団体の中で、ただ唐突に2世問題だけが発生しているわけではない。個別に見れば団体より親に問題がある場合もあるが、一連の番組が2世問題のモデルとして選んだ統一教会やものみの塔における2世問題の多くは違う。いずれも教団が熱心な信仰や実践活動を信者たちに求めている。逆らえば地獄に落ちる(あるいは死後に救われない)かのような宗教的な脅迫も伴っており、ものみの塔では親子であろうが夫婦であろうが棄教した相手と口をきいてはならない等のペナルティも行われている。
親が勝手に常軌を逸して信仰熱心になった結果ではない。組織や信者の集団が子育てに直接介在している。さらに言えば、親はただ「教義」を信じているというだけの生易しい話ではない。文書化された教義以外の教団内のルールや慣習、先輩信者や幹部らからの働きかけによって、従わなければ(親だけではなく子供も)ひどい目に遭うかのような誘導や脅しによって追い詰められている。
事実上の強要と言って差し支えなさそうなレベルの干渉だ。そもそも親が団体側から精神的に束縛され自己決定権を奪われ(つまり人権を侵害され)、同様かそれ以上のことを自分の子供に求める。これがカルトにおける2世問題の基本構造だ。
私がカルト問題を取材するようになってから20年近く経つが、当初から、カルト問題に取り組む人々の間で2世問題は取り上げられてきた。そこでは「宗教2世」ではなく「カルト2世」という言葉が使われている。
しかし上記の2番組は、団体側の問題を示す姿勢が一切なかった。NHKが特定の団体を「カルト」として名指しするのはさすがに難しいのかもしれない。だとしても、団体側の関与を伝えることは「カルト」という言葉を用いずともできる。「信仰を持つ親」と子供の関係のみに特化して見せるのは、視聴者に問題の構造を誤らせる。
上記3番組のうち唯一この点に触れたのが、6月17日に全国で再放送された 「かんさい熱視線」だった。
他の2番組同様に統一教会とものみの塔の2世と思しき人々が登場する。「カルト」という言葉は登場しないし、2世以外に対しても人権侵害集団であることも示されていない。しかし子育てに関する団体の方針を示す印刷物等を引用しながら、単なる親子関係の問題ではないことを示した。2世問題の存在について各団体にもコメントを求め、他人事のようにすっとぼけて見せる団体側の態度も伝えた。
欺瞞的な「感動ポルノ」や「民放的バラエティ」に毒されていない、「NHKらしい報道」と言える番組だった。
とは言え3番組とも、2世問題をカルト問題としてではなく「宗教2世」問題として扱う姿勢で一貫していた。カルト2世の問題を「宗教2世」として一般化すると、人権侵害集団とは言えない一般的な宗教団体を巻き添えにする。逆に「宗教」限定することで、宗教団体以外のカルトにおける2世問題をカウントしないことに
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