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リコール署名偽造をスクープした2紙の連携 西日本・中日の前例なき調査報道

読者の情報に応える双方向型報道、「VS権力」でも成果/全国ネットに29社参画

高田昌幸 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

西日本の調査報道班の窓口に寄せられた市民情報

 愛知県選挙管理委員会は2月1日、リコール署名をチェックした結果として、約43万5千人分のうち、約36万2千人分が不正だったと発表した。実に83.2%が不正というのである。不正署名の9割は複数の同一人物によって作成された疑いもあるとした。

 西日本新聞に情報提供があったのは、その翌日、2月2日だった。

 届いた先は「あなたの特命取材班」、略称「あな特」である。「個人・地域の困り事から行政や企業の不正告発まで、読者の情報提供や調査依頼に応える」として、2018年から同紙が着手。読者の依頼に応じる形で、企画紙面をつくったり、キャンペーン記事を載せたりしている。

拡大西日本新聞の「あなたの特命取材班」のウェブサイトから
 不正署名に関する情報は、西日本新聞ニュースサイトの「あな特」ページからメールフォームを使って寄せられた。提供主は福岡県久留米市に住む当時50歳の男性。アルバイトの募集に応じ、佐賀県内の貸し会議室で署名簿への書き写し作業を担ったのだという。

 その後、男性から電話で詳しく話を聞いたのは、クロスメディア報道部の竹次稔デスク兼記者である。竹次デスクは「あな特」の事務局員でもある。

 久留米市の男性との電話取材を終えたあと、竹次デスクは中日新聞に連絡しようと考えた。リコール対象は愛知県知事、男性から聞かされたアルバイト募集の会社所在地は名古屋市。舞台はすべて中日新聞のお膝元である。

 読者との双方向性を活かし、読者・市民の疑問を取材によって丁寧に解きほぐしていこう、という「あな特」の試みを西日本新聞は「読者伴走型の調査報道」と称している。そして、西日本新聞の呼び掛けに応じ、多くの地方紙で同様の試みが始まり、ネットワーク化も進んだ。その枠組みが「JODパートナーシップ」だ。JODは「ジャーナリズム・オン・デマンド」の略称であり、オンデマンド型の調査報道という意味である。中日新聞はその一員だ。

拡大愛知県選挙管理委員会の調査結果を受け、会見で「民主主義の根幹を揺るがすゆゆしき事態だ」と述べる愛知県の大村秀章知事=2021年2月1日、愛知県庁

2紙で情報共有 ペアでの取材も

 竹次デスクは言う。

 「メールフォームの内容と電話取材の内容は、中日新聞の担当デスクと共有しました。うちの総合デスクや部長の最終的なOKを事前に取ったかどうか……。記憶はあいまいです。事後報告だったかもしれません。でも、JODの枠組みの中で、普段からしょっちゅう、やりとりしてるんです。会社の壁? もうそんなことは意識してないですね」

 中日新聞で取材の窓口だったのは、名古屋本社社会部の酒井和人デジタル担当次長だ。中日新聞もオンデマンド調査報道の仕組みを持ち、「あなたから寄せられた情報をとことん掘り下げる」と宣言している。愛称は「Your Scoop(ユースク)」だ。

拡大中日新聞の「ユースク」取材班のウェブサイトから
 一連の取材経緯を酒井氏はこう振り返る。

 「(久留米市在住の)情報提供者の了解を得たうえで、情報の概要と提供者の連絡先について共有したいと、西日本新聞から提案がありました。弊社内で検討し、提案を受け入れました。第1報を掲載する前に共有したのは、情報提供者の了解を得られた一次情報のみです」

 その後、西日本新聞と中日新聞とのやりとりは、密度を増しながら断続的に続いた。デスク、現場をまとめるキャップ、さらには一線の記者。それぞれの立場で情報交換が続く。関連の取材で得た情報は次第に濃度を増し、現場での情報交換はさらに進んだ。こうして、ごく自然に合同取材チームは形成されたという。

 両紙の関係者によれば、取材で得た材料(素材)を共有し、それぞれの判断で共有素材から記事を仕上げる形も相当にあった。互いの出稿内容を事前に確認し合う場面もあったようだ。さらに、西日本新聞と中日新聞の記者がペアになって取材に出向くこともあった。

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筆者

高田昌幸

高田昌幸(たかだ・まさゆき) 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

1960年生まれ。ジャーナリスト。東京都市大学メディア情報学部教授(ジャーナリズム論/調査報道論)。北海道新聞記者時代の2004年、北海道警察裏金問題の取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞を受賞。著書・編著に『真実 新聞が警察に跪いた日』『権力VS調査報道』『権力に迫る調査報道』『メディアの罠 権力に加担する新聞・テレビの深層』など。2019年4月より報道倫理・番組向上機構(BPO)放送倫理検証委員会の委員を務める。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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