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[54]外国人を医療や福祉から排除する日本の公的制度~コロナ禍で困窮に拍車

外国人住民は社会を共に作る欠かせない仲間。尊重される世の中に

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

人権ふみにじる入管法「改悪」、市民社会の力で政府が断念

 5月18日、政府・与党は人権上のさまざまな問題点が指摘されていた入管法「改正」案の通常国会での成立を断念した。

拡大「入管法改正案」への反対を訴える人たち=2021年4月21日、東京都千代田区
 「改正」案の廃案をめざして署名活動や国会前での座り込み等の反対運動を展開してきたNPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」は、5月19日に「これが市民社会の総意である―『入管法改正案』、事実上の廃案を受けて」という声明を発表した。

 声明は、「改正」案が事実上、廃案になったことは「『自分たちが生きる社会で痛めつけられ、尊厳を傷つけられ、さらには生命さえ奪われる人がいることは許せない』という、まっとうな人権感覚をもつ市民一人ひとりが抗議の声をあげた成果」であると位置づけた上で、「この廃案にいたるプロセスは、『一人ひとりが声をあげれば、社会を変えることができる』という希望を感じさせるもの」であったと評価した。

 だが、声明の後半には、名古屋入管で亡くなったウィシュマさんの死の真相が依然として明らかになっていないことや、過去25年間に明らかになっているだけで21人が亡くなった入管の収容施設に今も多くの外国人が収容されていること等を指摘した上で、「戦後一貫して、移民・難民の人権を踏みにじり、外国人差別を作り出してきた入管体制は今も続いている」という記載もあった。

拡大衆院本会議の傍聴へ向かう名古屋出入国在留管理局の施設で亡くなったスリランカ人ウィシュマ・サンダマリさんの妹(手前2人)ら=2021年5月18日、東京・永田町
拡大衰弱の末に死亡したウィシュマ・サンダマリさんが名古屋出入国在留管理局の収容場から支援者に出した手紙やイラスト。日本語とローマ字が交ざり、「ほんとう に いま たべたい です」などと書かれている

困窮しても公的支援利用できぬ現状。外国人の相談続々

 入管法「改正」案への反対運動に参加してきた私も、同じ思いを持っている。「改正」案は、難民認定の申請が2回却下された後は、手続き中であっても退去の強制を可能にする規定が盛り込まれている等、入管の裁量を拡大し、今以上に外国人の人権状況を悪化させかねない内容になっていた。

 市民と野党の力で、法「改正」を阻止したことは大きな成果であったが、外国人の人権が保障されていない現状の入管行政が改善されたわけではないからだ。

 難民認定の申請中などで在留資格がない外国人は、就労が認められておらず、生活に困窮しても生活保護などの公的支援を利用することもできない状況に置かれている。

 私たち生活困窮者支援団体が外国人支援団体とともに東京都内の教会で開催した「ゴールデンウィーク大人食堂」(5月3日と5日)にも、2日間で約150人もの外国人の相談があったが、その多くは入管の収容施設を仮放免中で、在留資格のない人たちであった。国籍別で見ると、ナイジェリア、カメルーン、エチオピア等のアフリカ出身の方が最も多く、次にミャンマー、ネパール、トルコなどのアジア諸国の方々も多かった。

拡大今年の「ゴールデンウィーク大人食堂」の相談会場。外国人向けの案内が掲げられた=東京都千代田区、つくろい東京ファンド提供
 「ゴールデンウィーク大人食堂」では、生活相談に加え、ボランティアの医療従事者による医療相談のブースも設けられたが、そこに並んだ人のほとんどは外国人であった。日常の生活で医療にアクセスできないために、こうした民間の相談会で医療の相談を受けに来ている状況がうかがわれた。


筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困パンデミック』(明石書店)、『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)、『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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