憲法問題とともに、考えるべきもうひとつのこと
2021年06月29日
宮内庁長官の発言が、久しぶりに大きなニュースになった。
6月24日、西村泰彦長官の定例記者会見。発言は天皇陛下が名誉総裁を務める東京五輪・パラリンピックについて、「陛下が新型コロナウイルスの感染状況を心配し、開催が感染拡大につながらないか、ご懸念されていると拝察している」と述べたものだ。
西村氏は「私が肌感覚として受け止めているということ」と断り、「直接そういうお言葉を聞いたことはない」とも説明した。これを受けて加藤勝信官房長官は同日の記者会見で「宮内庁長官自身の考えを述べられたと承知している」と答えた。また菅義偉首相も翌25日、「(西村)長官ご本人の見解を述べたと理解している」と語った。
記者会見で発言を聞いた担当記者たちは、「これはニュースになる」と直感したことだろう。以下のように念を押した。
「仮に拝察でも長官の発言としてオンだから、報道されれば影響あると思うが、発信していいのか」
長官の意図を見きわめ、記事の書きぶりを判断するための質問だ。記者としてのスイッチが入った瞬間といっていい。西村氏はこう答えた。
「はい。オンだと認識しています。私はそう拝察し、感染防止のための対策を関係機関が徹底してもらいたいとセットで」
「オン」とはオン・ザ・レコード(オンレコ)、つまり記録・公開されることを前提とした発言という意味。オフ・ザ・レコード(オフレコ)の対義語だ。つまり西村氏は今回、思わずぽろりともらしたのではなく、むしろ広く報道してほしいという意図をもって発言したことを、記者たちもここで確認したといえる。
しかも、西村氏はもともと、安倍政権の官邸中枢から送り込まれたという経緯がある。
2016年7月13日、天皇在位中だったいまの上皇さまによる退位の意向がNHKのスクープとして報じられると、安倍政権は2カ月後、警察官僚で内閣危機管理監だった西村氏を宮内庁
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