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コロナ禍での東京五輪という「戦場」に国民を駆り立てる政府

宮内庁長官の「拝察」と尾身会長の「普通ではない」発言から浮かぶ権力の「圧力」

徳山喜雄 ジャーナリスト、立正大学教授(ジャーナリズム論、写真論)

宮内庁が周到に準備?

 長官発言の翌日6月25日の在京各紙の朝刊をみると、いずれも社会面などで抑えたかたちで事実関係だけを報じた。天皇が五輪開催の懸念を直接表明したのなら、とうぜん1面で大きく伝える話になるが、ここに宮内庁の周到な準備がみて取れる。

 この日の朝刊は、朝日新聞だけが二人の識者談話を載せ、長官発言の意味を読み解いた。名古屋大学准教授で歴史学専攻の河西秀哉氏は「長官の発言は、天皇の考えを反映していることは間違いないだろう。……ただ、天皇が発言の主体となると、政治問題に発展しかねない。長官の発言や感想として発表することで、憲法に抵触しないよう配慮した形だ。宮内庁はよくよく考えて発表したと思う」と解説している。

 一方、一橋大学名誉教授で政治学を専門とする渡辺治氏は「天皇の命令で戦争を招いた反省から、政治的な決断は国民とその代表である議員が行い、天皇に一切の政治的行為を許さない『象徴』とするのが憲法の『国民主権』だ。……国民主権を侵害するこの発言の危険性を認識すべきだ」と述べている。

 いずれの識者も長官発言の危うさを認め、河西氏は配慮したうえできわどい球を投げたと考え、渡辺氏は国民主権を規定した憲法に抵触しかねないとクギを刺している。

 その翌日の26日には、読売新聞朝刊が宮内庁長官発言に否定的な2人の識者のコメントを掲載。九州大学名誉教授の横田耕一氏は「五輪に反対する人たちが天皇の意見として都合のいいように利用する状況が生まれかねない」とし、国士舘大学特任教授の百地章氏は「西村氏は(天皇の思いを)公にするのは控えるべきだった」と断じた。

説明不足が招く国論の二分化と国情の不安定化

拡大都庁前で東京五輪の開催に抗議をする人たち=2021年6月23日、東京都新宿区

 ここで留意したいことは、菅首相をはじめ関係者の説明不足のまま、なし崩し的に五輪開催へ突き進んでいくことに対し、国論が二分し国情が不安定化していくことだ。

 かといって、天皇の発言がなければ、国民の気持ちがいい意味で一つになっていくことができないとすれば、これも大きな問題だ。

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筆者

徳山喜雄

徳山喜雄(とくやま・よしお) ジャーナリスト、立正大学教授(ジャーナリズム論、写真論)

1958年大阪生まれ、関西大学法学部卒業。84年朝日新聞入社。写真部次長、アエラ・フォト・ディレクター、ジャーナリスト学校主任研究員などを経て、2016年に退社。新聞社時代は、ベルリンの壁崩壊など一連の東欧革命やソ連邦解体、中国、北朝鮮など共産圏の取材が多かった。著書に『新聞の嘘を見抜く』(平凡社)、『「朝日新聞」問題』『安倍官邸と新聞』(いずれも集英社)、『原爆と写真』(御茶の水書房)、共著に『新聞と戦争』(朝日新聞出版)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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