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「お・も・て・な・し」「アンダーコントロール」は招致の決め手ではなかった~利権まみれの「公共事業」(上)

金融危機の不安が東京五輪への流れをつくった

小田光康 明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長

 2013年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれたIOC総会で2020年五輪夏季大会が東京に決まった。東京都はなぜ、オリンピックを招致したのだろう。東京五輪招致委員会は「震災後のスポーツの力」や「成熟国でこその開催力」を掲げていた。こんなスローガン、どこのだれが理解できようか。東京開催の目的が判然とせず、IOC委員からも疑問の声が上がっていた。

 招致活動では高円宮久子さんの優雅なフランス語と英語のスピーチや、滝川クリステルさんの日本の「お・も・て・な・し」という最終プレゼンテーション、そして安倍晋三元首相の「フクシマはアンダーコントロール」という発言。これらが東京選出の決め手になった。日本のマスコミの多くはこう書き立てた。

IOC総会での東京五輪招致の演説で「お・も・て・な・し」と言葉にする滝川クリステルさん=2013年9月7日、ブエノスアイレス拡大IOC総会での東京五輪招致の演説で「お・も・て・な・し」と言葉にする滝川クリステルさん=2013年9月7日、ブエノスアイレス

 これに対して、憮然としたのが物知り顔の国内大手マスコミの「IOC記者」だった。いやそんなことはない、安倍首相のトップ外交や舞台裏でのオリンピック貴族独特のロビー活動が奏功したのだと、すぐさま反論した。ただ、トップ外交やロビー活動の中身には触れずじまい、いや、触れられずじまいだった。

 一国の首相や大統領がIOC総会に顔を出し、オリンピック貴族らに愛敬を振りまけばオリンピックを招致できるのだろうか。招致関係者がオリンピック貴族のインナーサークルに入り込み、お友達をたくさんつくればオリンピックを招致できるのだろうか。

 オリンピック招致の問題は、オリンピック貴族やスポーツ関係者だけを取材しても埒が明かない。結果、上滑りした記事で紙面を汚すだけだ。先日の記事で、オリンピックはIOCと開催地、そしてメディアとの共謀と書いた。

 今回は、開催地が紡ぎ出すオリンピック・ビジネスのからくりについて述べていきたい。オリンピックの開催地を招致するのは「国」でなく「都市」だ。ここに東京五輪招致のからくりのすべてが凝縮されている。

 招致段階で本来前面に出て招致活動すべき猪瀬直樹・元都知事の陰は薄く、安倍元首相のパフォーマンスが目立った。なぜか。安倍氏の姿はなにを意味したのか。単刀直入にいえば、「日本発の金融危機」という脅しだ。東京五輪の招致成功の決め手はこれに尽きる。


筆者

小田光康

小田光康(おだ・みつやす) 明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長

1964年、東京生まれ。米ジョージア州立大学経営大学院修士課程修了、東京大学大学院人文社会系研究科社会情報学専攻修士課程修了、同大学院教育学研究科博士課程満期退学。専門はジャーナリズム教育論・メディア経営論、社会疫学。米Deloitte & Touche、米Bloomberg News、ライブドアPJニュースなどを経て現職。五輪専門メディアATR記者、東京農工大学国際家畜感染症センター参与研究員などを兼任。日本国内の会計不正事件の英文連載記事”Tainted Ledgers”で米New York州公認会計士協会賞とSilurian協会賞を受賞。著書に『スポーツ・ジャーナリストの仕事』(出版文化社)、『パブリック・ジャーナリスト宣言。』(朝日新聞社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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