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「お・も・て・な・し」「アンダーコントロール」は招致の決め手ではなかった~利権まみれの「公共事業」(上)

金融危機の不安が東京五輪への流れをつくった

小田光康 明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長

オリンピックの実態は利権がらみの公共事業

 オリンピック招致を読み解くには、国際政治やグローバル経済の知識が無いと難しい。ここで東京五輪開催が決定した2013年当時のこれらの状況について簡単に触れてみよう。招致成功は、安倍元首相がこの年の9月にアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれたIOC総会にたどり着くまでの足取りにカギがある。

IOC総会で東京をアピールする安倍晋三首相=2013年9月7日、ブエノスアイレス拡大IOC総会で東京をアピールする安倍晋三首相=2013年9月7日、ブエノスアイレス

 2013年といえば、リーマンショックの後遺症「静かなる世界恐慌」からの安定回復が、ロシアのサンクトペテルブルクで開かれたG20首脳会議の議題だった。この頃、欧州では幾度も金融危機がささやかれた。候補地の一つ、スペインのマドリードはこの影響で開催困難とされていた。

 もう一つの開催候補地、イスタンブールのあるトルコとて状況は変わらなかった。経常赤字がGDP比7.9%に悪化するなど、財政上の行き詰まりが見えていた。しかも、政情不安によるテロの危機から開催を危ぶむ声もあった。

 そして、東京とて経済的に安定した状況では決してなく、危機的な状況からようやく脱出という局面だった。この頃、日本の国債は際限なく積み上がっていた。1989年度末に161兆円だった累積国債発行額が、2013年度末は744兆円にまで達した。当時、日本が債務不履行(デフォルト)を起こせば、世界経済が破綻するとまで言われた。とりわけ発展途上国は戦々恐々としていたのである。

 21世紀初頭、「悪・ムダ」の公共事業の象徴が道路公団だった。その民営化で猪瀬直樹氏が急先鋒として活躍していた。また、リーマンショックの翌年、2009年の総選挙では民主党が政権についた。選挙では公共事業について「バラマキ」や「古い自民党体質」だと批判し、「コンクリートから人へ」を掲げた。蓮舫議員がスパコン開発で「2位じゃだめですか」と放言して話題となった事業仕分けで、民主党は公共事業を徹底的に削減していった。

 公共事業という財政政策は建設業など特定の業種に恩恵が偏る傾向にあり、増税に結びつくことも多い。これを生み出す国土交通省は諸悪の根源のような扱いを受けた。そして、公共事業の縮小は財政規律を重んじる財務省が暗躍した。ただ、これが行き過ぎてしまったのだ。

 2010度の日本政府の公共事業関係予算は5.8兆円で、2001年度の9.4兆円からすると約4割も削減された。当時の自民党国土交通部会は「公共事業関係予算の削減は、既に限界に達している」と決議文を出したほどだ。実際に国内の建設業界は疲弊しきっていた。

 たしかに、公共事業の多くは政治家の利権が絡む。ただ、国の経済政策として重要な意味を持つ。経済政策は大きく分けて財政政策と金融政策の2つがある。これらを同時に実施することによって相乗効果が生まれ、その効果が大きくなる。

 政権を奪還した安倍元首相は2012年、経済政策「アベノミクス」を打ち出した。これはマイナス金利をも容認する、無制限の量的緩和という金融政策を柱とした。一方、大規模な公共事業を柱とする財政政策のカードは切りにくい状況だった。

 財務官僚はアベノミクスの財政政策として「オリンピック」を考えついた。道路でなく、スポーツ施設であれば国民からの批判をかわせる。日本人の多くが信仰を寄せる「オリンピック」に紐づければなおさらだ。政治家にとってもオリンピックという錦の旗は、利権ビジネスの隠れ蓑になりえる。

 オリンピック招致では政治家と官僚の思惑が一致した。建前では公共事業を批判する野党もこれに乗った。2016年大会のオリンピック招致では、国の関与は限定的だった。2020年大会では一転し、オリンピックを国家プロジェクトとして格上げし、首相が先頭に立ったのだ。

無観客で行われた東京五輪の陸上テスト大会=2021年5月9日、国立競技場拡大無観客で行われた東京五輪の陸上テスト大会=2021年5月9日、国立競技場

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筆者

小田光康

小田光康(おだ・みつやす) 明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所所長

1964年、東京生まれ。明治大学情報コミュニケーション学部准教授。米ジョージア州立大学経営大学院修士課程修了、東京大学大学院教育学研究科博士課程満期退学。専門はジャーナリズム教育論・メディア経営論・大学経営政策論。現在、タイ北部山岳少数民族に向けた感染症予防メディア教育開発、及び貧困農村経済開発対策のプロジェクトに携わる。米Deloitte & Touche、米Bloomberg News、ライブドアPJニュースなどを経て現職。米五輪専門メディアATR日本代表、東京農工大学国際家畜感染症センター参与研究員などを兼任。日本国内の会計不正事件の英文連載記事”Tainted Ledgers”で米New York州公認会計士協会賞とSilurian協会賞を受賞。著書に『スポーツ・ジャーナリストの仕事』(出版文化社)、『パブリック・ジャーナリスト宣言。』(朝日新聞社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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