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東京五輪・令和3年夏の敗戦

開催に向けた「なし崩し」の意思決定

前田哲兵 弁護士

スイス法と日本法の共通点

 実は、こういった考え方は、日本の民法でも同様だ(民法第415条)。もともと日本の民法の起源は、英米法ではなく、ヨーロッパ大陸法にあるため、同じくヨーロッパ大陸法に属するスイス法と法概念が似ているのであろう。

日本民法第415条(債務不履行による損害賠償)

 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 なお、「開催都市契約66条ではIOC側の契約解除権しか定めておらず、日本側の契約解除権を定めていないから、日本は中止にできないのではないか?」という言説があるが、それは議論が少しずれているように思う。

 つまり、「契約を解除できるか」という問題と、「契約に定められた義務を履行するか否か」という問題は区別しなくてはいけない。仮に日本側で契約の解除ができないとしても、日本側でその契約に定められた義務を履行しないと判断することはあり得る。そして、そのように日本側に債務不履行があった場合に、日本側が損害賠償責任を負うのかということが問題となり、そこで上記の「不可抗力」に該当するかという論点が出てくるというわけだ。

 以上のように見てくると、「日本側には中止にする権限がないのだから、やるしかない。他に選択肢はない」という言説は、ミスリードであるように思われる。

責任の所在が不明確

拡大スイス、ローザンヌのIOC本部 Richard Juilliart / Shutterstock.com

 とすると、日本側でも、開催するか中止にするかという判断を迫られることになる。

 しかし、そもそも、今回のオリンピック・パラリンピックを「やる」か「やらない」かについて、日本側で一体誰が最終的・実質的な決定権を持っているのかが、いまいちよく分からない。日本オリンピック委員会なのか、大会組織委員会なのか、都知事なのか、総理大臣なのか判然としないのだ。

 どうも皆一様にリーダーシップを取ることを避け、「やる」と明言することを避けているように見える。いざやってみて、感染が拡大してしまった際の責任を負いたくないからだろう。

 そうして、対岸の火事であるIOCを除いて、日本側では誰も「やる」と明言しないままに、ただただ「やる場合に備えた準備」と称して、既成事実だけが積み上げられていく。

 おそらくオリンピック・パラリンピックはこのまま、誰も「やる」とも「やらない」とも最終的に決めることなく、引き下がることができなくなった結果として、なし崩しに開催されることになるだろう。

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筆者

前田哲兵

前田哲兵(まえだ・てっぺい) 弁護士

1982年、兵庫県生まれ。前田・鵜之沢法律事務所所属。企業法務を中心に、相続や交通事故といった一般民事、刑事事件、政治資金監査、選挙違反被疑事件などの政治案件や医療事故も扱う。医療基本法の制定活動を行うほか、日本プロ野球選手会公認選手代理人、小中学校のスクールローヤーとしても活動中。著書に『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』『交通事故事件21のメソッド』等

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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