白崎朝子(しらさき・あさこ) 介護福祉士・ライター
1962年生まれ。介護福祉士・ライター。 ケアワークやヘルパー初任者研修の講師に従事しながら、反原発運動・女性労働・ホームレス「支援」、旧優生保護法強制不妊手術裁判支援や執筆活動に取り組む。 著書に『介護労働を生きる』、編著書に『ベーシックインカムとジェンター』『passion―ケアという「しごと」』。 2009年、平和・ジャーナリスト基金の荒井なみ子賞受賞。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
いのちを軽視されている仲間たちの声を聞け
「職員に対する1回目のワクチン接種は7月23日。オリンピック開会の日です」
私の母がお世話になっている小規模の高齢者施設の経営者の言葉に、「ほんとですかー?!」と私は叫んでしまった。
母の施設は、5月に新型コロナウィルスによるクラスターが発生し、母も感染して入院を余儀なくされた。感染の恐怖を味わった職員たちのワクチン接種が、皮肉にも感染の大爆発が危惧されるオリンピック開会の当日とは!
この2ヶ月あまり、介護現場の実態を無視した国のワクチン政策に対し、強い怒りを覚えた私は、介護現場のワクチン接種に関する取材をしてきた。さらにここにきて、供給される予定のワクチンすらも足りなくなっている。
泥船のようなワクチン接種政策の犠牲になりながら、いま、この瞬間も利用者のいのちを支える介護職員たちの実態を報告する。
こんな見出しの記事を、5月10日に共同通信が配信した。そこには、コロナ感染で労災認定された人の業種について、「『医療業』や『社会保険・社会福祉・介護事業』などが全体の79%。死亡者も5人」と記されていた。
この記事は「ワクチン接種の早期実施に加え、一層の感染防止対策の徹底が求められる」と指摘したが、それから2ヶ月半近くが経過しても、介護職員への優先接種がなされているとは言い難く、現場からは怒りの声が多数あがっている。
私自身は、ワクチンには懐疑的で、インフルエンザワクチンすら一度も打ったことはない。息子がインフルエンザにかかり看病しても感染しなかった。私が初めてインフルエンザにかかったのは、息子も独立したあとの3年前。大火傷で5週間入院し、自宅療養中のときだった。大量の痛み止めや抗生物質を服薬したため、免疫力が落ちたからだと思う。
だがコロナ禍における切り札がワクチンだと言うのなら、コロナ労災において医療従事者とともに労災が多い介護職員に対し、なぜ優先接種がなされないのだろうか? オリンピック・パラリンピックは強行開催するというのに、介護職は置き去りだ。
いくら私がワクチンに懐疑的であっても、介護職に対する優先順位の低さは、高齢者や障害者、そして介護職員のいのちが軽視されていることの象徴としか思えない。
「高齢者は優先順位が高いではないか」との反論に対しては、以下の実態報告で応えたい。
介護職員は場合によっては、医療従事者よりも利用者に濃厚接触する。実際に介護現場の職員のコロナ感染率は看護師の2倍、医師の3倍との統計もある。また品薄のため高騰する感染防護物資は、医療現場が優先されるという厳しい実態がある(7月1、2日公開の論座「コロナ・パンデミックのただ中で、介護職員らはいのちによりそっている」上、下参照)。
もちろん、介護職員といっても、置かれている状況はさまざまで、自治体によっても差があり、同じ法人内でも高齢者と障害者では、行政の対応に差があることもわかってきた。
家族とともに暮らしている高齢者や障害者の在宅生活を支える訪問介護(ホーム)ヘルパーは、高齢者施設の職員より、優先されていなかった。訪問介護事業を運営する法人のネットワークや、ヘルパーたちが署名運動等をして事態は少し改善されたと聞く。だが、それでも地域や自治体によって対応はバラバラだという。
以下、現場の実態を子細にみていきたい。