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オリパラ開催に間に合わない!~介護職に対するワクチン接種の問題点(下)

五輪は介護する人、される人の人生に爪痕を残す

白崎朝子 介護福祉士・ライター

オリパラ開催に間に合わない!~介護職に対するワクチン接種の問題点(上)

“老老介護”だから打てる訪問介護ヘルパー

 「私たち訪問介護ヘルパーは“老老介護”なのよ!」

 そう自嘲気味に、あるいは怒りを込めて話す訪問介護ヘルパーの声を、コロナ禍になる前から何回も聴いてきた。在宅の高齢者を支援する訪問介護ヘルパーには、60歳以上の高齢者が多く、下手をすれば利用者よりも年上の80代のヘルパーもいる。

 そのため彼女たちは、「介護職」枠ではなく「高齢者」枠での優先接種をしているという皮肉な実態がわかってきた。

 施設を運営する大きな社会福祉法人に併設されている事業所に勤務するヘルパーや、病院の看護助手と訪問介護ヘルパーをダブルワークしている人など、医療現場に近いところにいる人ならば、接種できている場合もあるようだ。

 だが小規模な事業所や、病院とのつながりがない事業所に勤務するヘルパーは、蚊帳の外に置かれている場合が多い。そのため私の友人とその周りの訪問介護ヘルパーの多くが、「高齢者枠」による接種だ。

 一方、地域で暮らす障害者の場合は、利用者も介護にあたる職員も若いケースが多く、私の周辺にいる障害者も「基礎疾患枠」での接種となる。障害者のホームヘルパーや、施設職員の接種はさらに先で、事態は深刻である。

保育園の子どもたちと一緒に野球をするデイサービスの利用者。子どもたちとのふれあいは、こころ和むひととき。保育園の子どもたちと一緒に野球をするデイサービスの利用者。子どもたちとのふれあいは、こころ和むひととき。

猫の手も借りたいのに、副反応が出たら

 今年6月中旬に利用者の2回目のワクチン接種が始まった大阪市の有料老人ホーム。そこで働くKさんによれば、入居者の副反応はあまり出ていないという。だが、6月15日にワクチンを接種した職員に発熱者が続出し、支援体制に支障をきたした。副反応による人手不足を補うため、彼女は休日出勤を余儀なくされた。

 「1回目の接種では発熱などの副反応は出ず、2回目で20~30代の女性が3人、40~50代が2人発熱しました。さらに看護師数人がワクチン接種で発熱し、介護職員ができる限り看護師のフォローをしていました」との報告をKさんから受けた。

 都内の複数の特別養護老人ホームなどの施設長や管理者からは、ワクチン接種の難しさを聞く。

 「慢性的な人手不足で、いつも猫の手も借りたいような状況のなかで、やっと現場を回しています。ワクチンの副反応で一人でも職員が休めば、現場は回らなくなります。だから施設での職員の集団接種は不可能です。かといって病院や自治体から『キャンセルがでたから、いまからどうですか』との電話を頂いても、キャンセルが出た病院や会場が近くないと、仕事を抜け出して接種しに行くことはできません」

ワクチンハラスメントをどう防ぐか

 ドクターストップなどで、ワクチン接種ができない介護職員や、ワクチンの安全性等に疑念をもち、打たない選択をした介護職員も少ないがいる。

 ワクチン接種を希望する職員には、なるべく早い接種できる体制をつくって欲しいが、それと同時に、打ちたくない職員に接種を強制したり、身体的理由で打てない職員に対してのハラスメントは絶対にあってはならないと思う。

 奈良県M町の社会福祉法人では、接種を希望しない職員が5%いる。接種希望を何回も聞かれるなかで、「接種はしない」と答えるのは勇気がいる。「打たない人の声も大切にしてください」と職員が管理者に訴えていたという。

 「法人の理事や管理者などが積極的に発信しないと、無言のプレッシャーがかかります」と同法人のWさん。

 「打ちたくない職員もいますので、その意思は守られるべきだと思っています」という大阪市の管理者Nさん。

 「施設からは決して、打つ打たないの指示はしない」という施設管理者は、自分は打たない方向だ。

 上記の3人は、本来は、ワクチン接種をしたくない管理者や理事だった。そういう管理者や理事のもとで働く人たちはともかく、これから少なからず、ワクチンハラスメントが起きる可能性は高いだろう。どう防ぐのかは、大きな課題だ。

感染者数の少ない自治体から学ぶ

 前述の奈良のM町のWさんから、「高齢者枠の優先接種の終了が近づき、7月からは基礎疾患がある人と高齢者・障害者施設の利用者と職員の集団接種が始まります」と聞いた。

 「基礎疾患あり」の優先枠の案内は、国が作成した通知のままの内容で、そのまま読むと普通の障害者は対象外に読めた。一方、県からは「手帳所持者は優先接種」との通知がきていた。そこで町に確認すると、「M町に在住していない利用者も対象にします。合計何人になりますか?」との返事が返ってきた。

 ほぼ同時期に、「町内の高齢者施設・障害者施設の利用者・職員全員を対象に、集団接種をします。住所地は問いません」という連絡がM町より来て、利用者70名、職員100名のほぼ全員が接種できることになった。7月末にはほぼ接種が完了するという。

 関西の高齢者訪問介護事業所で働くHさんによれば、「私の事業所では、ワクチン接種の情報はくれますが、強制ではなく、副反応が原因で休む場合は“承認休務”になるそうです。“ 承認休務”とは、コロナ関連で感染、あるいは濃厚接触者となり仕事を休むときの扱いで、ワクチン接種時にも適用されるそうです」という。

 彼女の職場は私が取材してきたなかでも、労働条件や待遇がいいため、離職率も低い事業所だが、ワクチン接種後の有給休暇も取りやすいそうだ。そういった配慮こそが介護職員の離職を減らし、ひいては利用者のいのちを守ることになのではないだろうか……。

 感染者数が東京よりはるかに少ない地域から、ワクチン接種について学ぶところが大きい。

五輪開催に怒りの声、各地から

 各地の介護関係者から上がるのが、この状況下でのオリンピック開催を批判する声だ。

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