白崎朝子(しらさき・あさこ) 介護福祉士・ライター
1962年生まれ。介護福祉士・ライター。 ケアワークやヘルパー初任者研修の講師に従事しながら、反原発運動・女性労働・ホームレス「支援」、旧優生保護法強制不妊手術裁判支援や執筆活動に取り組む。 著書に『介護労働を生きる』、編著書に『ベーシックインカムとジェンター』『passion―ケアという「しごと」』。 2009年、平和・ジャーナリスト基金の荒井なみ子賞受賞。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
五輪は介護する人、される人の人生に爪痕を残す
オリパラ開催に間に合わない!~介護職に対するワクチン接種の問題点(上)
「私たち訪問介護ヘルパーは“老老介護”なのよ!」
そう自嘲気味に、あるいは怒りを込めて話す訪問介護ヘルパーの声を、コロナ禍になる前から何回も聴いてきた。在宅の高齢者を支援する訪問介護ヘルパーには、60歳以上の高齢者が多く、下手をすれば利用者よりも年上の80代のヘルパーもいる。
そのため彼女たちは、「介護職」枠ではなく「高齢者」枠での優先接種をしているという皮肉な実態がわかってきた。
施設を運営する大きな社会福祉法人に併設されている事業所に勤務するヘルパーや、病院の看護助手と訪問介護ヘルパーをダブルワークしている人など、医療現場に近いところにいる人ならば、接種できている場合もあるようだ。
だが小規模な事業所や、病院とのつながりがない事業所に勤務するヘルパーは、蚊帳の外に置かれている場合が多い。そのため私の友人とその周りの訪問介護ヘルパーの多くが、「高齢者枠」による接種だ。
一方、地域で暮らす障害者の場合は、利用者も介護にあたる職員も若いケースが多く、私の周辺にいる障害者も「基礎疾患枠」での接種となる。障害者のホームヘルパーや、施設職員の接種はさらに先で、事態は深刻である。
今年6月中旬に利用者の2回目のワクチン接種が始まった大阪市の有料老人ホーム。そこで働くKさんによれば、入居者の副反応はあまり出ていないという。だが、6月15日にワクチンを接種した職員に発熱者が続出し、支援体制に支障をきたした。副反応による人手不足を補うため、彼女は休日出勤を余儀なくされた。
「1回目の接種では発熱などの副反応は出ず、2回目で20~30代の女性が3人、40~50代が2人発熱しました。さらに看護師数人がワクチン接種で発熱し、介護職員ができる限り看護師のフォローをしていました」との報告をKさんから受けた。
都内の複数の特別養護老人ホームなどの施設長や管理者からは、ワクチン接種の難しさを聞く。
「慢性的な人手不足で、いつも猫の手も借りたいような状況のなかで、やっと現場を回しています。ワクチンの副反応で一人でも職員が休めば、現場は回らなくなります。だから施設での職員の集団接種は不可能です。かといって病院や自治体から『キャンセルがでたから、いまからどうですか』との電話を頂いても、キャンセルが出た病院や会場が近くないと、仕事を抜け出して接種しに行くことはできません」
ドクターストップなどで、ワクチン接種ができない介護職員や、ワクチンの安全性等に疑念をもち、打たない選択をした介護職員も少ないがいる。
ワクチン接種を希望する職員には、なるべく早い接種できる体制をつくって欲しいが、それと同時に、打ちたくない職員に接種を強制したり、身体的理由で打てない職員に対してのハラスメントは絶対にあってはならないと思う。
奈良県M町の社会福祉法人では、接種を希望しない職員が5%いる。接種希望を何回も聞かれるなかで、「接種はしない」と答えるのは勇気がいる。「打たない人の声も大切にしてください」と職員が管理者に訴えていたという。
「法人の理事や管理者などが積極的に発信しないと、無言のプレッシャーがかかります」と同法人のWさん。
「打ちたくない職員もいますので、その意思は守られるべきだと思っています」という大阪市の管理者Nさん。
「施設からは決して、打つ打たないの指示はしない」という施設管理者は、自分は打たない方向だ。
上記の3人は、本来は、ワクチン接種をしたくない管理者や理事だった。そういう管理者や理事のもとで働く人たちはともかく、これから少なからず、ワクチンハラスメントが起きる可能性は高いだろう。どう防ぐのかは、大きな課題だ。