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無観客の東京五輪開会式が後世に語り継がれるために必要なこと

コロナ下での五輪を開催する意味は? 誰もが抱く問いに十分な答えを示せるか

鈴村裕輔 名城大学外国語学部准教授

ソ連に対する米国の優位性を示す演出が随所に

 確かに、「エンターテインメント大国・アメリカ」らしい趣向の凝らされたロサンゼルス大会の開会式は、今もオリンピックの歴史を振り返る際に必ずと言ってよいほど取り上げられる、優れた催しではあった。しかし、当時の国際情勢、特に米ソ関係を考え合わせると、ロサンゼルス大会の開会式が持つもう一つの側面が浮かび上がる。

拡大レーニン・スタジアムで行われたモスクワ五輪の開会式=1980年7月19日

 東西冷戦も末期を迎え、ソ連側が政治的にも経済的にも陰りを見せるなかで行われた1980年のモスクワ大会の開会式は、ショスタコーヴィチの『祝典序曲』が演奏され、5層に分かれた5本の巨大な柱を舞台に様々な舞踏が披露されるなど、芸術大国でもあったソ連の力量を示すものだった。

 と同時に、聖火台直下の客席中央では、レーニンの顔や地球の上に鍬と鎌を配置する国章を人文字で表現するなど、大会組織委員会は体制の宣伝も忘れていなかった。西側諸国の多くがソ連のアフガニスタン侵攻に抗議して大会への参加を見合わせたとはいえ、開会式の様子は世界各地で放送されている。ソ連は、同盟国に対しては自国の健在ぶりを強調するとともに、その他の国々にも文化的な優越性を誇示しようとしたのである。

 それから4年後のロサンゼルス大会では、ソ連を「悪の帝国」と名指しで批判し、仮想敵国の弾道ミサイルをミサイルやレーザーなどを搭載した人工衛星によって迎撃、破壊する戦略防衛構想(スターウォーズ計画)を提唱したレーガン政権の意を体するかのように、ソ連に対する米国の優位性を示す演出が随所にちりばめられた。

 ジョン・ウィリアムズによる長調の明朗で健康的な音楽は、「自由の国・アメリカ」の開放的な文化を表現していたし、競技場に降り立つロケットマンの姿は、米国の科学技術力の高さの象徴そのものだった。

拡大メモリアル・コロシアムで華やかに繰り広げられた1984年ロサンゼルス五輪の開会式=1984年7月28日

「ソフト・パワー」の示す舞台として

 もっとも大会組織委員会は、開会式の演出に政治的な意図が含まれていることを公式に認めたことはない。

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筆者

鈴村裕輔

鈴村裕輔(すずむら・ゆうすけ) 名城大学外国語学部准教授

1976年、東京生まれ。名城大学外国語学部准教授、法政大学国際日本学研究所客員所員。法政大学大学院国際日本学インスティテュート政治学研究科政治学専攻博士課程修了・博士(学術)。専門は比較文化。主著に『メジャーリーガーが使いきれないほどの給料をもらえるのはなぜか?』(アスペクト 2008年)、『MLBが付けた日本人選手の値段』(講談社 2005年)がある。日刊ゲンダイで「メジャーリーグ通信」、大修館書店発行『体育科教育』で「スポーツの今を知るために」を連載中。野球文化學會会長、アメリカ野球愛好会副代表、アメリカ野球学会会員。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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