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世界初の強化支援プログラム「オリンピックソリダリティ」

大きく姿を変えた五輪で、日本発の未来に残せる価値となるか

増島みどり スポーツライター

 2018年、東京オリンピック・パラリンピックに向けて、過去にはなかった世界初の価値ある特別プログラムが始動していたことはあまり知られていない。

 新型コロナウイルス感染拡大によって、夏季32回目の五輪は、様々な問題や課題を突き付けられ、瀕死の状態に陥った。その度に、海外観光客の入国中止、無観客試合実施と、大きく姿を変えざるを得ないなかで、IOC(国際オリンピック委員会)とJOC(日本オリンピック委員会)が史上初めて取り組んだ共同事業、「オリンピックソリダリティ 東京2020特別プログラム」は、コロナ禍にもかかわらず多くの選手、指導者を東京に送り込み、五輪の価値や意義を未来につないだ、とその意義を見直されている。

 同プログラムは、「ソリダリティ」(連帯)をキーワードに、世界中のアスリート、発展途上国・地域の選手の育成、コーチやスポーツ関係者への強化支援を、IF(国際競技連盟)、NF(国内競技団体)と連携して行う。日本選手ではなく、「日本以外の」国々の強化支援を通じて国際的なスポーツ貢献を目指してきた。選手を受け入れる期間は原則3年間の「長期」、2週間の短期留学にも似た「短期」で、費用は、IOCに入る五輪放映権料やスポンサー料、JOCの予算からまかなわれてきた。

日本で磨かれたフィリピン体操選手

拡大フィリピンの体操選手カルロス・ユーロ(左)と釘宮宗大コーチ=2018年7月24日

 フィリピン男子体操代表として今五輪に出場するカルロス・ユーロ(21)は、このプログラムと、フィリピン時代から指導を続ける釘宮宗大コーチ(37)に支えられて同国初の体操でのメダルを狙う。

 ユーロは、母国で釘宮氏の指導を受け、さらに強くなりたいと、16年、高校2年で来日した。体操の「ナショナルトレーニングセンター」として指定される、朝日生命の体育館を拠点としてトレーニングを続けた。

 「来日した頃、自分がオリンピックに出場している姿は、はっきり言って想像できませんでしたが・・・」と、ユーロはシャイな笑顔で話す。19年の世界体操の床で金メダルを獲得すると、母国での体操競技への関心が一気にあがった、と釘宮は言う。来日した当初は、共同生活を送って生活費や学費の一部のサポートをした。

 こうした苦労も、東京2020の支援で改善された。練習拠点は引き続き環境の整った朝日生命体操クラブ(東京都世田谷区)に置く。2人は、場所を借りている状況だが、クラブ在籍の選手たちと同じように礼を欠かさず、同クラブの塚原光男・千恵子両氏も五輪出場を喜ぶ。

 釘宮がフィリピンで体操を指導していた当初、マットさえ満足にない環境下でユーロの向上心に強く魅かれたという。体操に限らずフィリピンに限らず、世界中に、自分の思いと環境が一致しない選手は多くいる。

 「この支援は多くの選手に五輪という夢、チャンスを与えてくれた」と、東京が示した日本選手以外への支援の特殊性を説明する。

 朝日生命体操クラブはこの活動で支援に体育館を提供し、ユーロともう1人、スリランカから受け入れた女子体操選手、ミルカ・ギハーニ(17)も五輪代表に送った。

 今大会スリランカの選手団は18人で、スリランカ初の女性オリンピアンとなったミルカは、旗手を務める栄誉も手にした。

 「スリランカでは、日本語を習う語学授業もあるほど、皆が憧れる国です。自分は体操と支援のお陰で日本に来られた。出場は母国だけではなく、日本の皆さんに感謝したい」と、緊張した様子で話す。

 JOCによると、18年の開始時、長期で13カ国・地域から6競技の19人、短期でイランの空手チームを受け入れた。各国への指導者派遣も行っており、アルゼンチンには卓球の指導者を送った。柔道でも多くの選手が、母国代表として、東京大会に出場する。

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筆者

増島みどり

増島みどり(ますじま・みどり) スポーツライター

1961年生まれ。学習院大卒。84年、日刊スポーツ新聞に入社、アマチュアスポーツ、プロ野球・巨人、サッカーなどを担当し、97年からフリー。88年のソウルを皮切りに夏季、冬季の五輪やサッカーW杯、各競技の世界選手権を現地で取材。98年W杯フランス大会に出場した代表選手のインタビューをまとめた『6月の軌跡』(ミズノスポーツライター賞)、中田英寿のドキュメント『In his Times』、近著の『ゆだねて束ねる――ザッケローニの仕事』など著書多数。

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