田中駿介(たなかしゅんすけ) 東京大学大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻
1997年、北海道旭川市生まれ。かつて「土人部落」と呼ばれた地で中学時代を過ごし、社会問題に目覚める。高校時代、政治について考える勉強合宿を企画。専攻は政治学。慶大「小泉信三賞」、中央公論論文賞・優秀賞を受賞。twitter: @tanakashunsuk
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「感動」の裏で起きていること
「オリンピックのために、困窮者はホテルから出ていってもらいます」。こんな不条理、許されていいのだろうか……。
昨年以来、東京都では住居を失った人が生活保護を申請した場合、協定を結んだホテルに1カ月間程度、滞在できる対応をとってきた。だが、五輪開催強行にともない、宿泊需要が高まったことで、ホテルを利用できないケースが相次いでいると報じられている(注1)。実際に筆者が生活保護申請の同行支援に携わった当事者も、それまで滞在していたホテルから移らざるを得なくなってしまった。
先月、筆者のもとにこのような相談が届いた。
「収入が足りなくて、いま家がありません。仕方なく友達の家で寝泊まりをしているが、長期化しており関係が悪化しています。友達に迷惑をかけないように、夜は極力公園で時間を過ごすようにしています」
相談した女性は20代前半である。深夜にたった一人で、公園で過ごさないといけないという状況を強いられていた。身体的にも精神的にも限界だ。その状況を耳にして、筆者は生活保護の申請を勧めた。当初は躊躇していたが、翌日意を決して区役所福祉課に行ったものの、勧められたのは緊急小口資金および総合支援資金の貸し付けと、住居確保支援金制度だった。
前者は、償還免除の要件が規定されているとはいえ、事実上の借金である。また、後者はすでに住まいがありながら、家賃を十分に払えない人向けの支援制度である。結局、生活保護の申請書は渡してもらえなかったという。